第八話 巨大獣ガゴンゴ ミザーリンの美しき罠 3
――時すでに遅し……。
エリーザ様は、俺達が彼女の部屋の掃除を終わらせて戻ると、――NITTAドキュメンタリーアワー・知らなかった世界――を見ている途中で寝てしまったようだった。
――ビックラニッポン新記録→フレンダーの犬→大河ドラマ・将門と純友と秀郷と→日曜ドラマ劇場・時間なのよ→NITTAドキュメンタリーアワー・知らなかった世界――というのが日曜日のゴールデンタイム鉄板番組だったのだが、残念な事に彼女は全部見てしまったらしい。
何故そう言い切れるかと言うと、地球から持ってきた新聞のテレビ欄に俺やマーヤが書いた覚えのない赤丸がこれらの番組の所にペンで付けられていたからだ。
あーあ、これはもう絶対にエリーザ様がテレビを欲しがるぞ……も~知らん。
まあ俺からわざわざ――テレビいりますか?――と聞くつもりも無いので、彼女が駄々をこねたら用意すればいいか。
それよりも地上に降りたミザーリンの方が気になる。
原作でもシャールケン提督の命令でミザーリンは地上に降りるのだが……。
ガッダイン5大百科に載っていた第八話はこうだ。
――青木流の元に彼の姉の渚だと名乗る人物が現れる。
なんと流は東南アジアでの戦争に巻き込まれた現地の日本人商社マンの息子だった。
反政府ゲリラによる子供を利用したテロに巻き込まれた流は姉の渚と生き別れになってしまった。
その後政府関係者に助けられどうにか日本に戻ってこられた流と違い、姉は現地で行方不明になってしまったのだ。
だが姉の渚は先日のツチノコ番組の特番の臨時ニュースでガッダイン5の戦いを見て、流の声を聞いたので居ても立っても居られないと思い、北原未来要塞ベースを訊ねたらしい。
生き別れの姉に会えた嬉しさに流は渚に貰ったという人形を彼女に返そうとする。
だが渚は戦争のショックでその事を覚えていなかった……。
それもそのはずだ、本物の渚は現地で死亡しており、この渚はミザーリンの変装した姿だったから。
ミザーリンは北原未来要塞ベースに入り込み、超電磁バリア発生装置を破壊、巨大獣ガゴンゴで破壊活動を開始する。
姉を守る為、流はガッダイン5のメインシステムを自分にしてほしいと言い、戦う。
遠距離戦に強いが接近戦に慣れていない流は、苦戦の末巨大獣ガゴンゴを倒し、姉の渚にそれを伝えようとする。
だが渚は置手紙を残して去っていった。
それには――流へ、つかの間の間でしたが楽しかったです。ですが私がいると貴方が集中して戦えません。どうか姉は現地で死んだものだと思い、貴方の責務を全うしてください。さようなら、お体にお気をつけてください。二度と会わぬ姉より――。
この手紙を握りしめ、流は誰もいない海辺でただ一人、唇を嚙みしめて泣いた。
一方その頃北原未来要塞ベースから離脱し、デラヤ・ヴァイデスに帰還したミザーリンは流から受け取った人形を踏みにじって壊し、不敵な笑みを浮かべていた。
……浜野監督、登場人物にモデルでも居て恨みでもあるんですか?
なんとも救いの無い話である。
この話の肝は今までクールで皮肉屋の流が実は熱い男だったと分かる事と、ミザーリンの非情さにあるだろう。
だが今のミザーリンがそこまで冷徹になり切れるのだろうか?
俺は北原未来要塞ベースに仕掛けたスパイドローンで様子を見る事にした。
「失礼ですが、貴女は誰ですか?」
「わたくしは、青木渚と申します。是非、弟に……流に一目会わせてください、お願いします」
「お、お嬢さん。泣かないでも……。わかりました、所長に掛け合ってみます」
「ありがとうございます……。ありがとうございます」
どうやら原作通りにミザーリンは北原未来要塞ベースに渚として潜入したようだ。
そして、所員の連絡を受けた流が血相を変えて走ってきた。




