番外編 宇宙漂流記ルミナス 16 バリアン・ワールド 4
ハイルタットの乗る邪神兵ダウエル。
それはバリアンの倍以上の大きさだった。
「クソッ、ハイルタットめっ!!」
「ジョルジュ王子、これはワナです。誘いに乗ってはいけません!」
「だがランベル……これではチュチュルが」
ランベルは答えられなかった。
チュチュルはランベル将軍の娘だ。
だが彼は最愛の娘よりも白い谷を守ろうとしている。
この選択は彼の中でも苦渋の判断と言えるだろう。
自分の娘が可愛くない親がいないわけがない。
「どうしてだよ、アンタ自分の娘が可愛くないのかよ」
スターリング、誰のせいでこうなったと思ってんだ!?
バキッ!!
オレは思わずスターリングを殴り飛ばした。
何でオレこんな事してしまったんだろう……。
「レ、レイジ。何すんだよ! パパにも打たれたこと無いのに!」
そうか、この甘さ、痛みを知らなかったからなんだな。
彼が以前のオレにそっくりだと思った理由が分かった。
「お前は以前のオレと同じだよ、このままじゃどんどん腐ってしまう。今のうちに痛みを知っておいた方が良いんだ……。今回の件、誰のせいでこうなったか、それをじっくり考えてくれ」
オレ、こんな事言うヤツだったっけ……。
何だか変な世界を転々としているうちにオレも感化されてるのかな。
「ランベル、僕は行くよ。チュチュルを助け出す」
「ジョルジュ王子、大局を見誤ってはいけません!」
「僕は白い谷のリーダーである前に、このジョーダー王国の王子だ。きっと、全てを助け出してみせる。そうでなければあの征服王ラーダルに勝てるわけがないんだ!」
そう言うとジョルジュ王子は飛空バリアンで邪神兵ダウエルの元に向かった。
「……セドリック。ウィンセルを僕に貸してくれ。僕があの子達を助け出す」
「スターリング。わかったよ。ボクはここから砲撃で援護するよ」
「ありがとう。セドリック」
初めてだ。スターリングが人にありがとうと言っていた。
彼の中でも何か少し変化があったのかもしれない。
そして、飛空バリアンが到着すると邪神兵ダウエルのハイルタットが叫んだ。
「来たか、ジョルジュ王子!」
「ハイルタット! チュチュル達を返せ!」
「良いだろう。さあ、そこの機人よ、この者達を連れていくが良い。私は人質に頼るような戦いはしたくない。あくまでもジョルジュ王子を呼び出す道具に使わせてもらっただけだ! 行くぞ、この邪神兵ダウエルの力、見るが良い!」
下半身の蛇をくねらせながらダウエルは巨大な鎌を振り回してきた。
そしてバリアンが真っ二つに鎌で斬られた!
——いや、あれは単に分離しただけか!
上半身の飛行バリアンと下半身の銃砲バリアンになったバリアンは邪神兵ダウエルの攻撃を避けながら再び合体した。
「今度はこちらから行くぞっ! バリアンソード!!」
出た! これがバリアンソードだ。
剣が長い鞭のようになり周りのプロタウルスやフライガルをまとめて倒した!
そして貫通力を持ったままの鞭の剣が邪神兵に絡みつく。
「クッ! 何だこれは!?」
「クソッ、僕だってやってやる!!」
スターリングの乗ったウィンセルのリニアレールガンがダウエルの頭部、目の部分を破壊した。
「な、何だ!? 前が見えない、うおおっ!」
邪神兵ダウエルはいきなりの伏兵に驚いて鎌をその場に落とした。
「今だ、チュチュル達を助け出したぞ。ここは一旦退却だ!」
「ジョルジュ王子! 逃げるか、卑怯者め」
「ハイルタット、聞こえるか。ここは一旦手を引け」
「ラーダル様、何故ですか? 私はこのままジョルジュ王子ごとバリアンを……」
「退けと言っておるのだ。余の命令が聞けぬか?」
「承知……致しました」
どうやら相手も撤退するようで、この戦いは痛み分けの引き分けと言えるだろう。
「みんな、ありがとう。おかげでチュチュルを取り戻す事ができた」
ジョルジュ王子がオレ達に握手を求めてきた。
その手を取ったのはスターリングだった。
「レイジ、タキオンエンジンとワープ装置は修理完了だ。これでお前達の世界に戻れるだろう」
「イーズバン、ありがとう」
「わたしとしてはキミ達には早く消えてもらいたいんだ。星の調停者からするとキミ達はイレギュラー。この惑星ラースの歴史には残らない存在だからな」
やはりコイツは別惑星の人間だったか。
「さようなら! ルミナス号のみんな」
「ジョルジュ王子、元気でね!」
「負けんなよ!」
「さようならー」
ジョルジュ王子と白い谷に別れを告げたルミナス号は恒星間ワープに入った。
——ワープ開始、5.4.3.2.1.0ワープ!——
ルミナス号はワープに成功。
だが、ワープ先にあったのは二つの重なった太陽だった。
そしてやたらと荒れた荒野の惑星にオレ達は不時着。
何だよ、またワープ失敗か??




