第四十話 巨大獣ベルゴン 戦いの末に 3
——アハハハハ、滑稽なのだ………。他者を見下し、天才だと自負していた我は、皇帝を模して改造された造り物、ただの自己を持つと思い込んだ肉人形だったのだ…。——
これは本編四十話でアクラデスの言っていた台詞だ。
この台詞の後、自己を失い完全に壊れてしまったダンダルは研究室に火をつけて炎の中で笑いながら焼死し、デスカンダル皇帝により自らがデスカンダルの子供を作らされて脳を移し替えられる母体にされる計画だった事を知ったアクラデスは血の涙を流しながら狂ったように笑い続けた。
俺はその声優さんの演技が、当時見ていた子供ながらにめちゃくちゃ怖かったのを覚えている。
アイデンティティを失ってしまった二人は精神的に壊れ、もう笑うしかなかったのだろう。
――それを迫真の演技で再現した声優さんに脱帽だ。
まあとにかく今のこの時間軸では、アクラデスもダンダルもどちらも地球人の側についた。
アクラデスは千草や竹千代、そしてダンダルはコーネリアに好意を持っている。
なんだかんだと裏で動いたのは俺だったが、結果的には全部の流れが良い方向に行っている。
だからこの後もし本編通りにダバール星で革命が起きていたとしても、自身が皇帝のクローン人間だったと知ったアクラデスやダンダルが精神的に壊れてしまう事は無いだろう。
本編での彼女達は他者を認めず、彼等の世界には姉弟しか無かった。
その状態で自身の存在意義を否定されたので、誰一人頼れる相手もいなく、クローンの悲しみを共有できたのはたった二人の姉弟だけだったと言えるだろう。
だが、今のこの時間軸、姉弟キャラと言えるミザーリンとトニーもいるし、不治の病故にサイボーグ化の未来を選ぼうとしたコーネリアもいる。
つまり、彼等以外にもみんな辛い思いを乗り越えてきたという事で、分かり合える仲間がいるのだ。
当然ながら本編の話を知っている俺も彼女達の理解者になろうと思っている。
今は全員の力を合わせないとあの狡猾な三島長官の姿のブキミーダやデスカンダル皇帝と戦う事が出来ない。
だが、今は地球の全ての現存する最強ロボット達、そしてダバール星人が協力して、デスカンダル皇帝に戦いを挑もうとしている。
明日の朝にはブルーマフラー隊もこの南方の島に上陸する。
彼等と合流次第、俺達は地球を離れ、デラヤ・ヴァイデスを経由してダバール星に向かう事になるだろう。
――さあ、決戦の準備は整った。後はデスカンダル皇帝を倒し、あの人工太陽を制御する方法を見つけるだけだ!――
俺達は翌日、ブルーマフラー隊の到着後、マグネコンドルと機動要塞ドグローンで大気圏を離脱し、宇宙空間に向かった。
「ふう、どうにか大気圏を離脱できたようだなー」
「流石は光一郎の設計したマグネコンドルじゃぞい。地球の技術を遥かに上回る高性能と言えるな」
「ヨヨギハカセ、そのコウイチロウというのがハリール叔父上の地球での名前だったのですね」
シャールケンもバルガル将軍も今は地球人の北原光一郎がハリール王子だったという事がわかったので、その前提での話で今後の事も話せそうだ。
「そうじゃな、光一郎のダバール星での名前がハリールだったというわけじゃな。世の中は広いようで狭いもんじゃな、まさか戦っていた者同士の共通の知人が同じ人物だったとはのう……」
「ハリール叔父上がいれば、ダバール星はもっと平和な星だったかもしれん、ですが実際はデスカンダル皇帝の支配と、その腰巾着だったブキミーダが仕切っていたので、ダバール星は地獄のような場所だったと言えるだろう。だが今はそのブキミーダがまさか地球人のミシマの中に入っているとはとても信じられんが……」
全員の共通認識がまとまってきたのでそろそろ作戦会議を始めた方が良さそうだ。
さて、まずはどうやって人質を取り返すか……だな。




