第三十九話 巨大獣バルバル バルガル将軍、散る 2
え!? と驚く展開だ。
なんと荒川長官は数千人、下手すれば万を超す地球人の捕虜を全員引き受けると言っているのだ!
「荒川長官、まさか捕虜の数を数百人程度だと思っておりゃしませんか? 捕虜の数は下手すれば数千から、万を超すかも知れませんぞい。今更冗談でしただの、そこまで多いと思ってませんでしただの言われても困りますぞい」
だが荒川長官は平然とした態度で通信を続けていた。
「あー、もちろん分かった上での話ですがー。まあ輸送が大変かも知れませんがー、それも海上輸送隊の輸送機を使ってー、大型タンカーに協力して貰えば数千人は乗れるでしょう」
ひょっとして、荒川長官は有事には役に立たないが、平時には有能なのかも知れない。
反対に三島長官ほ平時には普段やらかさないようなミスをして、――これならまだ戦場の方がマシじゃわい。――と言うくらいデスクワークは向いていなかった。
「うー、それで日本の基地に着き次第、過疎地の廃校や村に各自希望者達にどこが良いかを聞いて受け入れればー、なんとかなるでしょう。あー、その土地にそのまま住むもよし、戦争が終わり次第新たな場所に向かうもよし、それはあくまでも本人の自由意志ですからねー」
ひょっとすると荒川長官は内政のエキスパートなのかも知れない。
思い出した! 確か原作では役立たずの政治屋として三島長官に張り倒されていたのが荒川農水大臣だ。
そうか、人事異動での防衛大臣がそのまま地球防衛軍極東司令部にスライド人事になったから、荒川大臣が荒川長官になったんだな!
やはり適材適所というべきなのだろうか。
この地球上での戦闘が一段落ついた後は、荒川長官の政治力が捕虜にされた一般人を助ける事になった。
これはいくら原作の三島長官や代々木博士でもそう簡単に引き受けられる事では無かった。
原作では数千人の捕虜を助け出す前に殿を引き受けたバルガル将軍の猛反撃でガッダインチームが苦戦した。
最終的に超電磁クロスフィニッシュに敗れた巨大獣バルバルの中で自害しようとするバルガル将軍をガッダインチームはコクピットに手を突っ込んで彼を助け出す。
そして敵がいなくなってから地球人の捕虜達を助け出したガッダインチームだったが、結局防衛軍の輸送機や爆撃機は全部巨大獣ギョガゴゴに破壊されていて、捕虜は奇岩島でしばらくの間残って生活する事になった。
原作ではその後主人公達は大型宇宙船マグネコンドルに乗ってダバール星を目指すのでその後の奇岩島の捕虜の件は持ち越しのまま物語が終わってしまう。
そういえばこの原作での捕虜の件に触れた大臣が荒川農水大臣だったわけだ。
それに対して――普段戦いもしないくせに票田になりそうな人員はさっさと受け入れる政治屋がキサマかー!――と三島長官が激昂してぶん殴ったのだ。
だが今ならわかる。
彼は彼の戦場で戦っていたのだ。
――軌道装機ガンボーグ――に出てきたガップ大将は原作では無能な地下シェルターから指示を出すだけのモグラ政治屋モドキと思われていたが、スピンオフ作品では餓死者の出そうな作戦を立てる他の無能なプライドだけは高い参謀気取りの将官に対して、利権を匂わせつつ食糧や物資を円滑に運ぶ手立てを整えるタヌキぶりを見せた。
おそらく荒川長官もそのタイプなのだろう。
戦闘には全く役に立たないが、運用面、輸送、人員配置などの内政には優れた人物。
まあ、彼が見てくれるなら地球人の捕虜の件は問題なさそうだ。
さて、バルガル将軍やみどりさん達と話した上で今後の作戦を考えよう。
とりあえずは俺の部屋に戻ってみるか……。
だが俺はそこでとんでもないものを見てしまうことになった!
俺の目に飛び込んできたのは、メチャクチャに破壊されたコンピューターとテレビ、それにデータを保存していた簡易式自主製ハードディスクだった……。




