第三十八話 巨大獣ギョガゴゴ 崩れ行く奇岩島 5
どうやらシャールケンはまだ北原千草がハリール王子の娘だとは知らないようだ。
「それが、どうやらあのガッダインチームの北原千草と言う少女は、地球に亡命してきたダバール星のハリール王子の娘のようなのです」
「何だと、ハリール叔父上の!?」
そうか、シャールケンもダバール星の貴族の一人ならハリール王子とはどこかで血縁として繋がっていてもおかしくはない。
確かシャールケンはガッダイン5大百科だとダバール星の公爵の息子だったはずだ。
公爵と言えば皇帝、または王族の肉親に属する者というのが世のセオリーか。
そうなると彼がハリール王子を知っていても何もおかしくはない。
「だが……ハリール叔父上は病弱で隔離されたまま亡くなったはず、わざわざ国葬までしていたくらいだ……」
成程、当時治安警察長官だったブキミーダの提案なのだろうな。
ハリール王子に逃げられたなんて失態を隠す為に、国葬で死体無き棺をパレードさせる事で彼を慕った民衆に絶望と悲しみと事実を叩きつける為だろう。
――その上で兄弟だったデスカンダルが皇帝になったという流れにすれば、いくら皇帝の器でないはずのあの俗物でも民衆が世襲を認めざるを得ない……。
「その国葬がブキミーダの失態隠しだとすれば? 現実にハリール王子は地球に逃れ、北原少佐という地球の軍人に助けられて彼の息子として地球人の姿で生活していたわけだから」
「そうだ、そしてそのハリール王子こと、光一郎を助けたのが当時日本軍の軍人だったワシなのだ。当時はダバール星人の事などまるで知らなかったがな。少し顔色の悪い不健康な少年といった風貌だったからな」
成程、ハリール王子はその頃から地球人を調べた上で肌の色の調整を自ら薬で行っていたというわけか。
だから薬の副作用で早死にしてしまったとも言える。
「成程、ミシマはその頃からハリール叔父上との知り合いだったわけか。これで納得できたわ、地球人の技術力でアレだけのロボットが作れた理由が、ダバール星人の天才であったハリール叔父上の産物だと聞けばな……」
どうやらシャールケンにとってハリール王子とは尊敬に値するだけの人物だったらしい。
「それで、そのチグサという娘がハリール叔父上の娘だというのは、どうしてわかったのだ?」
「それは、ブキミーダが彼女を攫い、身体を徹底的に調べたところ、ハリール様と同じ遺伝子を持っていることが分かったからなのです」
まあ、この説明が一番違和感は無いだろう。
「そうか、そういう事だったのか。それであの卑怯者のブキミーダはそのチグサをデスカンダル皇帝に差し出す事で自身の立ち位置を守ろうとしていたというわけか。あの下衆が!」
「それはわかりますが、何故あのブキミーダは千草さんを皇帝に?」
俺はあえて分かっている事だったが、シャールケンの認識を確認する為に質問してみた。
「デスカンダル皇帝は皇帝の血を引いているとはいえ、その素性は妾の子だ。それに対し、チグサは正当な王家であるハリール叔父上の直系となる。だからデスカンダル皇帝は彼女を妻とする事で自身が唯一の皇帝であると民に知らしめようとしているのだろう!」
まあその認識ならほぼ正解に近いな。
これでシャールケンが今後俺達の敵になる事は無さそうだ。
「感謝する、これで今の状況がようやく分かった。だが、この後お前達はどうするつもりなのだ?」
「そうですね、とりあえずは奇岩島基地に行って考えましょう。あのブキミーダに好き放題に動かれると何がどうなるかわかりません」
「うむ、そうだな。とりあえず明日にはここを出なくては」
本当は今日の夜でもここを出た方が良いのだろうが、島民全員が命の恩人である俺達の為に宴を催してくれている。
こうなったら今晩のうちに先行部隊としてタイタン部隊に先に奇岩島基地に戻ってもらって、その後で俺達は合流するかな……。




