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第三十四話 巨大獣バゾンガ 死者が蘇る怪談話 8

 どこか物悲しいが美しい歌声……。

 その歌を聞いた者全てが寸又峡の紅葉を眺めながら心地よい歌に酔いしれていた。


 それは動物も例外ではない。

 竹千代とアクラデスの二人はリスやタヌキ、野兎といった山の生き物達と一緒になって心地よいメロディーを楽しんでいた。


「ああー。癒されるのだ。鳥も降りてきたのだ」

「そうですね、世界がこんな風にいつまでも穏やかだと良いんですけどね……」


 竹千代とアクラデスの二人は小川の傍の森林の中で森林浴をしながら癒されていた。

 だが! いきなりそんな峡谷に凄まじい声が轟いた!!


「ボェエー、グオオエエエエー」


 あまりにもすさまじい怪音に動物たちは驚き、一目散に逃げだし、鳥は失速し、アクラデス達はひっくり返って川に落ちてしまった。


「な、何だ何だ何だ!?」

「あ、ああ……あんのバカァアア! 何をしておるのだァあああっ!!」


 間違いない、この凄まじい騒音は……アイツだ。


 川の上流では、ダンダルが歌いながらあの恐ろしい紫の劇物を捨てていた。

 どうやらコーネリアの歌を聞いて対抗意識を燃やしてしまったらしい。


 気持ちよく歌っていたコーネリアだったが、あまりの騒音雑音怪音にずっこけてしまった!


「な、何なのよ! 人が気持ちよく歌っていたのに……あの怪音、騒音妨害だわ!!」


 崖の上で歌っていた彼女は興が削げてしまい、この怪音を出している奴が誰なのかを調べないと気持ちが落ち着かないようだ……。


 まあそれもそうだろう、気持ちよく歌っていた時にあんな雑音聞かされたら誰だって嫌になる。


 激おこのコーネリアは音の出所を探る為、崖の展望台から降りてきて、耳を塞ぎながら怪音波の聞こえる方に向かった。

 そしてついに怪音波の発生源であるダンダルを見つけ、思いっきり怒鳴った。


「何なのですか!? アナタは! 人がせっかくいい気分で歌っていたのに……気分が台無しです! 何なのよ、その変な歌!」


 気持ちよさそうに歌っていたダンダルは、いきなり怒り顔の少女が現れた事に驚いたが、その後すぐに歌を止め、コーネリアに話しかけた。


「お、おおおッ、お嬢さん。先程の歌は、お嬢さんの物だったのですかッ?」

「そうよ、アナタのせいで台無しになりましたけど! って、何ですかこの臭い!?」


 どうやらダンダルの行動は更にコーネリアの怒りに対し、火に油を注いでしまったようだ……。

 そりゃあ超絶にド下手な騒音公害を聞かされた上、臭いの酷い劇物を自然に捨てているのを見たら怒り心頭とも言えるだろう……。


「最悪、ニホンの山って西ガリアと同じくらい綺麗で素敵な場所って聞いてたのに、気分が台無しだわ!!」


 もう怒りが頂点に達してしまったコーネリアはさっさとその場を離れようとした。


「お、お嬢さんッ。お待ちなさいッ。これ、落とし物」

「知らないわよっ、ついてこないで!!」


 あーあ、ダンダルが完全にコーネリアを怒らせてしまった。

 彼女は怒ったまま姿を消してしまったようだ。


 いったい彼女はどこに行くだろうか?

 俺は昆虫型スパイドローンでコーネリアの移動先を調べてみた。


 とりあえず、服の色は薄紫のワンピースで、髪の色は金髪、目は碧眼。

 身長的には……竹千代やケン坊とほぼ同じサイズ……と。


 俺がスパイドローンで追跡をすると、コーネリアは父親の待つ旅館に戻ったようだ。


「おお、コーネリア。どうだった? 決心はついたか?」

「パパ……ワタシ、もうこの国イヤ、帰りたい……」

「どうしたんだい? お前がどうしてもパパの仕事について来たいというからわざわざ旅行の日程を増やしたのに……」


 そうか、コーネリアは生身の身体でいられる最後の時間を少しでも感じていたかったのか。

 それをあの空気を全く読めないダンダルがぶち壊しにしたってわけだ。


 まあ、これで彼女が今日の午後、突風にあおられて転落死する未来はぶち壊れたが……この後どうなるのやら……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダンダルが森のくまさんに……コーネリアの落とし物返せると良いね
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