第二十九話 巨大獣ギャンゴ 巨大な腕が襲う! 8
本編中でのミザーリンは他の男を信用せず、他人を足蹴にして、信望するシャールケンの為だけに生きる戦闘マシーンのような女だった。
一方のトニーは特殊部隊タイタンの隊長として皇帝の命令でどんな事でも逆らう事無く実行する冷徹な殺人マシーンのような男だった。
どちらも幼少時に他者に踏みにじられた為に誰も信じられないまま成長し、自らを必要としてくれたのがシャールケンやデスカンダル皇帝だったのでその命令に逆らう事なく従うのが本人達の幸せだと思ってしまったのか……。
また、トニーは自らがどこまでも不幸な身の上だったので、他者が幸せならそのささやかな幸せを奪い、踏みにじる事でようやく心が満たされていたのかもしれない。
――だが、ミザーリンは俺が命がけで戦場から助けてやった事で改心し、人の為に生きる事の意味を知ってくれた。
まあ、本音言うと俺が処刑されたくないので助けたら、改心した彼女がそれ以降地球人もダバール星人も関係なく助けてやりたい俺の言う通りに動いてくれるようになったってとこだけど……。
それ以降ミザーリンは青木流に会って姉弟のフリをしたらどうやら本当に境遇の似た流を弟のように思い、彼を助けたいと思うようになったようだ。
まあここだけの話、多分アレ……流の事が好きになってしまったんだろうな。
まあミザーリンはそんなこんなで本編と違い今は心が満たされているようだが、一方のトニーはまだ心が荒んだままだ、そんな状況であの洗脳ヘルメットを使われてしまった日にゃもう元に戻るのは不可能だろう。
――マジでブキミーダやデスカンダル皇帝の悪辣さには反吐が出る。
ロボットアニメ悪役ワースト10にデスカンダル皇帝が入っていないのがおかしいくらいだ。
それはさておき、今後の特殊部隊タイタンとトニーをどうやって本編のような悲惨な末路から助けてやるかが問題だ。
特殊部隊タイタンはあの洗脳ヘルメットをかぶり、デスカンダル皇帝の命令に従う形で米国ペンタゴンを壊滅させ、その後北原未来要塞ベースに侵攻した。
この時間経過の間に一週間が過ぎ、あのヘルメットを外してももう脳がボロボロになってしまった為に再起不能になってしまった。
だが俺は彼等が奇岩島基地に到着してまだ間もないうちにこの洗脳ヘルメットをすり替えてしまったので彼等の脳への負担はまだ二日も経っていない。
だから今のうちに作戦を実行した上で失敗させてしまえば彼等タイタン部隊ももう本星には戻れなくなるだろう。
その上で身の振り方を考えれば良い、幸いここの奇岩島基地は現在、ある意味の独立特区みたいなもんだ。
ミザーリンは俺に話を聞いてもらい、少し気分が落ち着いたようだ。
今はマーヤちゃんと水曜ダイナミック・滝口ひろし探検隊を見ている。
今日の探検隊は、幻の人食い土人アーゴンを追え! だった。
アーゴンを探す滝口隊長はジャングルの中でピカピカに磨かれたどう見てもプラスチック製の骨を見て驚く、ここのミンダナオ島山中の奥地に幻の部族がいるのか!?
いや、今見るとチャチいと言うのか、どう見ても作り物のやらせ丸出しだ。
だがこの二人、それをまじまじと真剣な目で見ている。
どうやらミザーリンも今を楽しめているみたいでよかった、本編のままの彼女がもしテレビを見ても何の面白みも感情もわかない人形みたいな人間だっただろうから。
「ご主人様ー。アーゴンに見つかったらワタシ達、食べられてしまうんですかー!?」
いや、マーヤちゃん、キミ機械だから食べられないって。
それにこれ作り物のヤラセ番組だからね……。
「大丈夫だよ、マーヤちゃん。この奇岩島にはアーゴンはいないから」
「それなら安心しましたー」
「大丈夫ですわ、何が出てもわたくしが守ってあげますから」
いや、その気持ちは良いんだけど……やはりミザーリン、今はポンコツ化しているようにしか見えないな。




