第二十九話 巨大獣ギャンゴ 巨大な腕が襲う! 7
感動の姉弟の再会を想定していた俺だったが、まさかの展開に驚いた。
いきなりミザーリンは再会した弟のトニーの頬を引っ叩いたのだ!
「姉さんが……姉さんがどれだけ心配したと思ってるのよ……バカ……」
「……」
だがトニーは泣き顔の姉を見ても何の表情の変化も見せなかった。
――いや、これは表情が変化しないのではない、あの洗脳ヘルメットの影響で感情や理性といったものが麻痺している状態なのだ。
だがこの状態のままトニーとミザーリンを一緒にしておくのは良く無さそうだ。
「ト、トニー様。とにかく今日はもうお休みください。身体を動かして疲れたでしょうから、あちらに特殊部隊タイタンの皆様の部屋を用意してあります」
「あ、ト、トニー、話はまだ……」
ミザーリン、今のトニーには話すだけ無駄だ。
その代わり俺が愚痴を聞いてやるから。
「特殊部隊の皆様はまだ到着したばかりで疲れているのです、明日以降には話が出来るかと……それで、ミザーリン。話があるんだが部屋に来てもらえるかな」
「はい、わかりましたわ」
普段なら顔を赤らめてイヤーンとでも言いそうなミザーリンが冷静な態度だ。
これはやはりシリアスな空気だと言えるのだろう。
俺はミザーリンを部屋に呼び、マーヤちゃんにお茶を出してもらった。
「ミザーリン、さっきの特殊部隊の隊長と何があったんだ?」
「彼の名はトニー、わたくしの弟ですわ」
いや、一応知ってるけどね。あえて話を聞きだす為に質問したわけ。
「トニーはわたくしと一緒に小さい頃から過ごしてきました。でも貴族の妾の子供二人、どこに行っても厄介者扱いで結局二人で飛び出してしまったのですわ、今考えるとバカな事をしたと思います」
それも仕方ないだろう、そこまで追い詰められた内容を俺はガッダイン5二十九話の回想シーンで見ているわけだし。
「身寄りのない姉と弟……わたくし達は頼れる者も無く、二人だけで極貧生活の中生きていました。時には身体を売ったり、盗みをしたり……生きる為には私は何でもしましたわ……」
マジで想像以上に名作劇場並みの過酷さじゃないか!
そりゃあ本編で頼れる者も無いミザーリンが心を閉ざし、他人を利用するだけの悪女にもなるわけだ。
「そんな中、わたくしは働いていた店を行きつけにしていた軍の幹部にスカウトされ、軍人になったのですわ。ですがその時、弟にはその事を告げる事は出来ませんでした。何故ならわたくしの配属された部署はご存じの通り、諜報部訓練科だったのですわ」
まあスパイを作る為の特殊養成科、そりゃあ身内にも話すわけにはいかない守秘義務だ。
「そして少しお金が手に入ったわたくしが家に戻ると、そこにはトニーはおらず、彼は悪い仲間とつるんでチンピラになり果てていたのです」
まあ貧乏人の家族によくある話だ。
「それで、トニーには声をかけたのか?」
「いいえ、彼をそこまで追い詰めてしまったのがわたくし自身だという事を自覚し、わたくしは彼と決別しました」
「それなら何故、先程平手打ちを?」
確かにおかしな話だ、決別したと言いながら何故平手打ちをしたのか、俺はその理由が知りたかった。
「皇帝特殊部隊タイタン、わたくしの所属する諜報部でもその話はよく聞きましたわ。皇帝の命令でどのような非道な事も成し遂げる冷血無情の特殊部隊、その隊長は悪辣で笑いながら命乞いをする家族を皆殺しにするような男だと聞きました。まさか、その特殊部隊の隊長が……トニーだったと知り、いても立ってもいられなくなったのですわ……」
まあ想像以上に重い話だった。
一応ガッダイン5大百科でミザーリンとトニーの姉弟のエピソードは載っていたが、まさか本人に聞くと想像以上にハードな話だったわけだ。
このミザーリンとトニーの二人の姉弟、絶対に本編のような不幸な結末にしてはいけない!
 




