第二十六話 巨大獣アゴゴン 新幹部アクラデス登場! 3
ダンダル軍務卿は血を見なければ食欲が湧かないという戦闘狂だ。
その彼が――つまらない、面白い見世物はないのか!――という事=殺戮ショーが見たいという意味だ。
原作ではダンダル軍務卿を歓迎した際にブキミーダは捕虜を特設コロシアムに放ち、巨大獣による大虐殺ショーを見せてダンダルの機嫌を取っていた。
――冗談じゃない! そんな事できるかっての!!――
「ブキミーダ、小生がこんなつまらん物を見せられて喜ぶと思っておるのか?」
「い、いいえ……滅相も御座いません……」
「そうだな、捕虜を用意しろ。話はそれからだ」
マジですか! これから虐殺ショーやるのはマジ勘弁してください。
こうなったら、最後の手段だ! 捕虜のみんな、残念だが犠牲になってくれ!
俺は耳栓を用意し、マイクをダンダルに手渡した。
「んッ? 何だこれはッ??」
「い、いえ……ダンダル様は、歌が大変お好きだと小耳に挟みましたので、是非ともその腕前を御披露していただければと……」
「そうか、虐殺ショーの前に歌を歌って景気づけというのも悪くはないッ、でかしたぞッブキミーダ!」
ほっ……助かった。
って実はこれ虐殺ショーに匹敵する拷問なんだけどね!
ダンダルは実は戦うのと同じくらい歌うのが好きだ。
だがその腕前は……壊滅的、音痴を通り越して兵器になるくらいの騒音、雑音、怪音波だ。
すまない、捕虜の人達よ。
命を奪われないだけマシだと思ってこの恐怖のリサイタルを乗り越えてくれ……。
マイクを受け取ったダンダルは気持ちよさそうに大声で歌とも言えないような巨大な叫び声でがなり続けていた。
集められた地球人の捕虜は耳を塞ぐ者、その場で泣きだす者、立ったまま気絶する者、嘔吐する者等が続出し、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた……。
それを制するはずのダバール兵も全員がグロッキーになっていて、彼等自身が地球人を制するどころでは無かった。
一時間歌い続け、ダンダルは一旦歌を止めた。
「よし、調子が上がってきたぞ! さあ、これからが本番だ!」
ダンダルが殺戮ショーの為に愛用の剣を鞘から抜こうとした。
「お待ちください、この者達はまだまだダンダル様のお歌を聞きたいと申しておりますっ」
すまない、本当にすまない。
だがお前達の命を守る為だ、ここは我慢して耐えてくれ……。
「そうか、そんなに小生の歌が聞きたいか! 心の友よ!」
「はいはーい、ご主人様ー。向こうのお片付け終わりましたー」
ゲッ! このタイミングでマーヤちゃん登場!?
「あら、マイク……ここにもう一本ありますね」
マーヤがマイクを拾ってしまった……終わった。
「ぬ、何だキサマッ。キサマも歌が好きなのかッ?」
「はいー、どうですか? 一緒に歌いませんか??」
マジでやめてくれーっ!!
拷問にさらに輪をかけてどうするんだ、マーヤちゃん。
「おお、女、オマエなかなか良いノリじゃないかッ。では歌おうッ!」
「女じゃないですー。ワタシ、マーヤって言いますー」
ああ、マジで終わった……。
マーヤとダンダルの地獄のデュエットは、設営会場にヒビを入れ、飛ぶ鳥を落とし、大勢の観客に泡をふかせ、更なる阿鼻叫喚の地獄絵図を作ってしまった。
「何だ何だ何だ!? 一体何が起こったのだ!?」
風呂上がりで髪の毛がバサバサのままのアクラデスが急いで服を着てパーティー会場に駆け付けた。
だがそこは既に惨劇の跡、死屍累々が横たわる場所だった。
「ダンダル……キサマというヤツはぁぁあああー!」
「あ、兄者ァッ。こ、これは小生が悪いわけではッ……」
「問答無用だぁああ! そこに座るのだぁあああっ!」
「ひぃいいッ、兄者ァァッ、勘弁してくれェェエッ!!」
あーあ、ダンダルがアクラデスにこっぴどく叱られている。
まあ半分は俺のせいなんだが、ここは黙っておこう。
「ブキミーダ、今回の惨劇、どう落とし前を付けるのだ?」
あら、どうやら俺も怒られる事になるのね……。




