第二十二話 巨大獣ゴゴルガ デスカンダル皇帝の声 5
俺がこの後の会話で覚えているのは、その後も続くデスカンダル皇帝によるシャールケン提督への叱責だった。
――シャールケンよ、あまり言いたくはないが……貴様はこの星の危機についてどう思っておるのだッ?――
――はっ、ダバール星の人工太陽の老朽化、ならびに暴走によって多くの民が苦しんでおります。ですので私は一日も早いダバールの民達の平穏の為、地球を何としても手に入れようと日々努力しております!――
それに対してデスカンダル皇帝はこう言っていた。
――お前が努力しておるのはよく知っておるのだッ。生まれながらの天才とて努力せぬと、努力した凡人に出し抜かれる事もあるからな。だが、結果の見えない努力は所詮徒労でしかないのだッ。我を納得させたければお前は我の納得できるだけの結果を見せる事なのだッ。お前は少し疲れているのだろう、どうだッ……もし地球が手に入らない場合の移住先の候補に月と火星の二つがある。好きな方を選ぶがよいッ――
それを聞いたシャールケンの表情が強張った。
その表情と演出はまるで――怪奇新聞――の主人公のような驚愕の表情に後ろの背景が気持ちの悪いゆらゆらしたようなもので、まあ……70年代の作品によく見られた長富演出というべきか。
――叔父上、それは……私は地球方面司令官からお払い箱という事ですか!?――
――そうではないのだッ。お前が疲れているだろうから少しの休暇を与えようという我の気持ちだ。さあ、ゆるりと休暇を楽しむがよいのだッ。それで、月と火星……どちらを選ぶのだッ?――
デスカンダル皇帝の言い方は優しいように言っているが、実際は無能なシャールケンを更迭し、新たな司令官に地球を任せると言っているのと同じ事だ。
――それでは、火星を……選びます――
そして更迭の確定したシャールケンは自らの進退についての事を俺達に伝える為にここで作戦会議を行うというわけだ。
「これより、地球侵略作戦会議を行う。その前に余からお前達に礼を言いたい」
「シャールケン様! 一体どうなされたのですか!?」
「シャールケン様??」
バルガル将軍とミザーリンがシャールケン提督に対し、いきなりの展開に焦った態度を見せている。
まあそれだけシャールケン提督が彼等から尊敬された上司だと言えるのだろう。
実際彼は部下に当たり散らすような事も無ければ出来ない事を無理してやらせようというタイプではなく、自らが前線に出ようというタイプだった。
「シャールケン様、お礼とは?」
とりあえず俺も態度を合わせておくことにしよう。
それが社会人経験者としての振る舞いといったところか。
「余はデスカンダル皇帝により、新たな任務を与えられる事になった。余はこれより火星に向かう。当面の司令官代理は前と同じようにエリーザに任せる。皆の者、こんな余に着き従ってくれた事、心より礼を言いたい」
「シャールケン様! シャールケン様が行くというなら、このバルガル、お供致します!」
「ならぬ!」
「何故ですか!? シャールケン様!」
「ならぬといったらならぬのだ。お前はダバール星人達の期待を背負っておるのだ。その民たちの為にも是非とも地球侵略を完遂せよ。それが提督を辞する余からの最後の命令だ」
シャールケンのこの返答に、バルガル将軍が男泣きをしている。
隣のミザーリンも思わずもらい泣きしていた。
そしてシャールケン提督の後ろからエリーザ様が姿を現した。
「兄上、兄上のおられぬ間、この私が司令官代行を成し遂げて見せます、是非見ていてください」
「エリーザよ、不甲斐ない兄で申し訳ない」
シャールケン提督は深々と頭を下げ、全員にお礼を言っていた。
さて、俺もどうにか彼が良い感じに戻って来れるように何か手を打たなくては。
ここでシャールケンに貸しを作っておけば俺の処刑フラグも避けられる可能性が増えるはず。