第十九話 巨大獣ゾンゾン 暗闇からの暗殺者 5
「剣崎さん……といったかねぇ。アンタ、相当の手練れだね」
「恐縮です」
巴と剣崎隊長はお互い礼をした後、激しい攻防を見せた。
剣崎隊長が襟首をつかもうとすると巴はそれを最小限の動きで躱し、巴が足払いを決めようとすると剣崎隊長が足を素早く動かしてそれを躱し、反対に大外刈りの体制に持って行こうとする!
大外刈りを躱した巴が今度は内股で勝負を仕掛けようとし、相手の袖を掴み素早い動きで相手の手を引き込もうとする。
コレってマジでスポ根柔道アニメでも通用するレベルの動きじゃないの?
ロボアニメでやる内容とはとても思えないレベルの高さだ。
「かーちゃん、すげえ」
「剣崎隊長、頑張ってください」
「隊長やっぱりすげえわ。このガンテツ様が隊長には全く手も足も出ないからなー」
この長い攻防戦を制したのは、巴だった!
「もらったばい!」
「なっ!? 何だとっ」
剣崎隊長の身体が投げ飛ばされた。
だが彼は背中が地面に着く前に身体を丸め、見事な体制で宙返りをしてその場に立った。
「それまで! それ以上やるとどちらかが大怪我をしてしまうぞい」
剣崎隊長と巴の対決は結局ドローで終わった。
「玄太郎、お前のおふくろさんすげえな!」
「かーちゃんは、昔女三太郎と言われた柔道家ばい。男だったら間違いなくオリンピックメダリストになれていたと言われてたばい」
そうだ、この時代まだ女子柔道はオリンピック競技ではなかった。
巴は普通の男の中に混ざってその実力で数多くの男を投げ飛ばしたんだ。
本編でもその回想シーンの彼女がかなりの美人だった覚えがある。
「玄太郎、かかって来な。とーちゃんの柔道を教えてあげるよ」
「わかった、かーちゃん。いくぞっ!」
「おっと、ちょっと待つばい。準備するから」
そう言って彼女は余っていた帯を使い、眼を帯で目隠しした。
「さあ、かかって来な。玄太郎」
「かーちゃん、そんなの無茶だって」
「お前に心配されるほどオラは弱くないばい。さっさと来るばってん」
「う、うぉおおおっ!」
玄太郎が巴に襲い掛かった。
だが、巴はそれをまるで気にせず、どこに玄太郎がいるのかを見極めた上であっという間に投げ飛ばした。
「ぐぇっ!」
「どうしたんだい、こんなもんで終わりじゃないばい」
「まだまだぁ!」
だが何度玄太郎が飛び掛かっても巴はそれが見えているかのように確実に玄太郎を掴み、投げ飛ばした。
この光景に流石の剣崎隊長も驚いていたくらいだ。
「ま、参った。かーちゃん、降参ばい」
「おやおや、だらしないねぇ。ところで……さっきから気になってたんだけど、坊や、坊やも柔道やってみるかい?」
「ワシ? ……ワイか? では、お手柔らかにお願いします」
いくら俺でもここでケン坊(三島長官)対巴の対決は想定していなかった。
「目隠しを取らせてもらうよ、アンタ……相当の何かを持っているね」
「そんなことないですよ」
「行くよ、手加減は無しばいっ!」
巴は素早くケン坊を投げ飛ばそうとした。
だが彼女よりも少し身長の低いくらいのケン坊はそれを躱し、素早い足さばきで巴の足を捕らえた。
「な!? これは柔道じゃない。まさか、古武術……柔術!?」
巴は目の前の人物をただの子供と侮った自分を後悔したようだ。
少しの気のゆるみが彼女の命取りとなった。
「もらった!」
「な、なっ!?」
ドシィーン!
二人はほぼ同時に床に倒れ込んだ形になった。
「すみません、どうやら足がもつれてしまったみたいです」
「大丈夫よ、おばさん慣れてるから。っつぅ……!」
よく見ると巴の足が腫れ上がっている。
どうやら先程のケン坊との対決で足をくじいてしまったようだ。
このままでは帰れなくなってしまった彼女はそのまま医療室に運ばれた。
幸い軽い捻挫だったので数日休めば良くなるらしく、彼女はその間北原未来要塞ベースに滞在する事になった。