第十九話 巨大獣ゾンゾン 暗闇からの暗殺者 3
さあ、噂をすれば何とやらだ。
俺の昆虫型スパイドローンは北原未来要塞ベースに向かっている女性の姿を見つけた。
中年の女性といった感じだが、凛とした姿は若々しくも見える。
少し小太りな感じではあるが、若い頃は相当の美人だったのだろうなという片鱗が見えるのも特徴的だ。
まあ本編で彼女の若い頃の回想シーンが少し出ていたが、これがかなりの安川美人といった感じで、そんな小柄な彼女が大の男を投げ飛ばしているシーンだった。
どうやら玄太郎は父親似だったようだ。
巴の目はいざ勝負となると、年を重ねてもキリっとした切れ長で、普段のニコニコした線目とは違っている。
そんな彼女は背中の篭一杯に野菜を載せている。
この重量、間違いなく百キロ近くあるだろう。
そりゃあ龍也が持とうとしてひっくり返るわけだ。
そんな野菜を日々抱えて行商するので、下半身の強さは大の男のガッダインチームより勝っているとも言える。
昭和の中期まではこのように電車に大きな籠を載せて行商する女性の姿が、地方ではまだ残っていたのだ。
お、本編通り龍也が巴に気が付いたようだ。
「おーい、おばさーん。大変そうだな、オレが持ってやろうか?」
「おや、お兄さん。ええですばい。これはオラにしか出来ませんばってん」
「遠慮するなよ、オレこれでも力に自信あるんだからよっ!」
龍也、どう考えてもお前には無理だ。
「うげっ! な、何だこの重さ!?」
ドシーン!
龍也が野菜まみれになってコケてしまった。
まあ原作通りの展開だ。
「龍也さんっ! 大丈夫っ」
「イテテ……何だよコレ」
「フッ、龍也。だらしないな」
「流、だったらお前が持ってみろよ!」
これも原作通り、流も持てずに変顔で倒れ込む。
まあ長富演出っぽいと言えばそんな感じ。
その時籠からこぼれた野菜が歩いてきた玄太郎の下駄の足元に転がった。
「おっ。これは……。えっ、ま、まさかっ」
野菜を拾った玄太郎は目の前の女性を見て、涙目になった。
「か、かーちゃん! かーちゃんじゃないかよー!」
「玄太郎……」
「かーちゃーん、会いたかったよー」
玄太郎が両手を広げて巴に向かって走り出す。
「玄太郎ー」
ここで巴も息子を受け止める、と普通は思うもんだ。
だが、玄太郎が両手を広げて母である巴に抱きつこうとした瞬間、玄太郎のトレーナーの襟首を持った巴は素早い動きで自分の倍以上ある玄太郎の巨体を地面に投げ飛ばした。
「の、のわぁあああっ!」
ドシーンッ!
玄太郎はわけもわからず、仰向けで空を見上げた。
すると、彼の上には涙目で玄太郎を見下ろす母親の巴の顔が見えた。
「玄太郎、なんだい。その腑抜けた動きは……。――オラ情けなくて父ちゃんに合わせる顔が無いよ……」
「かあちゃん……」
そんな巴に千草が声をかけた。
「貴女、玄太郎さんのお母さんなんですねっ。どうぞ基地に来てくださいっ」
「おやおや、わざわざすまないねぇ」
野菜籠を背負った巴はガッダインチームの案内で北原未来要塞ベースにお邪魔した。
彼女の持ってきた野菜はおタケさんが引き取り、言い値で買い取ると言った。
「ええんですばい、オラこれ売るつもりで持ってきたわけじゃないばってん。どうぞみんなのメシの為に使ってくだされ」
「いいえ、これだけの良質の野菜。タダでもらうなんてバチが当たりますよ。遠慮せずにコレを受け取ってくださいな。さあ、今日はご馳走だよ! ケン坊、アチャコ、手伝ってくれよ」
ケン坊の姿の三島長官と、彼の妹のアチャコが料理長のおタケさんの指示で昼食の準備を始めた。
今日は日曜日なので小学校は休みだったのだ。
そしてお昼の時間になり、巴の持ってきた野菜を中心に食事が用意された。
「いただきまーす! って、玄太郎。普段なら三倍飯のお前が元気ないな」
「いや、オイはどうも……」
どうやら玄太郎はさっきの巴に投げられた事が尾を引いているようだ。