第十八話 巨大獣アビンガー ブキミーダの暗躍 5
「つまりお前は、防衛軍の軍人ではないが……ワシらの敵では無いと言いたいのだな?」
「はい、そういう方はわたくし以外にもいます」
「お前……ダバール星人か?」
ケン坊の中の三島防衛長官は、青木大尉に変装したミザーリンの正体がダバール星人だと見抜いたようだ。
「はい、ですがここで本当の姿を見せるわけにはいきませんので、このまま話をさせてもらってよろしいでしょうか?」
「わかった。お前の態度次第だがな」
ケン坊の姿の三島長官はミザーリンの上にまたがった状態から再び椅子に座り直した。
ミザーリンもソファーに座り、二人は再び会話を続けた。
「アナタこそ、ただの子供じゃないわね。どう見てもその動き、ベテランの軍人にしか見えなかったわ」
「そうか。貴女は今からワシの言う事を信じられるかな?」
「えっ!?」
「本当のワシは三島守人、世間では三島防衛長官と呼ばれておる地球防衛軍極東支部司令官だ」
ミザーリンは驚く様子を見せず、成程と言った落ち着いた態度だった。
「なるほど、それではアナタは三島防衛長官のクローンといったところで、子供のフリをしてガッダインチームをサポートしていたわけかしら」
「違う! 断じて違うっ!」
ケン坊が声を大にして言った。
幸いこの応接室は防音なので外に音は漏れないようだ。
また、この時代、防犯カメラは全箇所に設置されているわけでは無く、この応接室は防犯カメラも存在しない部屋だ。
「違うって……それでは、なぜアナタは子供の姿で?」
「ワシもそれは分からん。だが、一つだけ言える事がある。お前達の戦っている地球防衛軍の三島防衛長官はワシの姿をしたニセモノだ!」
「えっ!? それではあれはアナタのなりすましって事??」
流石に普段冷静なミザーリンも状況が飲み込めなくなってきたようだ。
「いいや、残念ながらアレは本物のワシの身体だ。ワシはどういうわけか飛行機の不時着の際に気を失い……目を覚ますとこの少年の体の中に入っておった。貴女は、魂という存在を信じるかな?」
「タマシイ? 何かしらそれ」
どうやらダバール星人のミザーリンには魂の概念は理解できないらしい。
「簡単に言えば人間を動かす意識を構成する形無きエネルギー体みたいなものだ。ワシのその意識を構成する形無きエネルギー体が飛行機の事故の際に本来のワシの身体から抜け、この少年の身体に宿った。そしてワシの身体は今何者かに入り込まれて好き放題に使われておるというわけだ」
「つまり、あの三島長官はニセモノって事ね」
ケン坊の姿の三島長官が安心した感じで話を続けた。
「その通りだ。どうやらあのワシの体の中の偽者は、地球とダバール星人の戦争を長引かせ、悪化させようとしているように見える。ところで貴女の言っていた――敵では無い――とはどういう意味だ?」
ミザーリンがケン坊の姿の三島長官に説明を続けた。
「はい、実はわたくしの他にもダバール星人には仲間、いや……信頼できる方がおりまして、その方は地球人に出来るだけ犠牲を出さずに戦いを終わらせたいようなのですわ。名前までは明かせませんが、わたくしはその方の指示で動いているとだけお伝えします」
「……成程、ダバール星人にも穏健な和平を求める派閥があるという事か」
「はい、あの方はとても素敵な方です」
「貴女、その人物に惚れておるな……」
オイオイオイ、三島さん、いきなり何を言い出すんだ!?
「えっ!? ええぇっ??」
「隠してもわかるわい。ワシの長年の経験からな」
「フフフ、負けましたわ。どうやらアナタは本物の三島長官みたいですわね。子供にそこまでの洞察力があるわけがありませんもの」
「わっはっはっは、亀の甲より年の劫じゃって」
二人はその後も楽しそうに談笑した。
「ワシはあえて貴女の本当の名前は聞かん事にする。青木大尉殿、これからも両勢力の平和の実現の為に力を貸して欲しい」
「勿論ですわ、わたくしも貴方が本物の三島長官だとは誰にも伝えませんから」
「いいや、その貴女の協力者にはぜひ伝えて欲しい。その上で今後の計画を考えようではないか」
「承知致しましたわ、ケン坊くん」
どうやらこの二人の会話は、無事にお互いの理解を得る事が出来たようだ。