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八話 邂逅

 パチッ、と指を鳴らした紅舞(ありか)

 すると、タイミングを合わせるようにして燃え上がっていた炎が爆ぜた。

 大気が吹き荒れ、紅舞の朱色を乗せた髪の毛がなびく。

 まるで人形のように整えられた顔に、すっと添えられた鼻。

 炎の色に染められている瞳は、視界に捉えたものを容赦なく排除するかのような恐怖心を抱かせる。 

 しかし、一つ残念なことに。

 視線を首下まで持っていくと、平面の胸元が虚しくも存在している。

 

「……なんであたしの名前を知っているの?」


 暗翔の下心を読んだわけではあるまいが、眉根を寄せる紅舞。

 目つきを細め、警戒を宿したかのような瞳がこちらを覗く。

 

「あぁ。いや、その前にお礼を。助けてくれてありがとうな、紅舞」


「っ……あ、紅舞って初対面のくせに呼び捨て?」


 紅舞が、唇を尖らせ反論。

 対して、暗翔は薄笑いを浮かべながら言う。


「可愛い女の子の距離を縮めたいのは、当然だろ?」


「か、可愛い……って、!」


 ぶんぶん、と首を横に振る紅舞。

 そして、なにかを発しようと口を開きかけた矢先に。

 二人は同時に、はっと視線を上に向けた。


『ギガガァアマガガッッガァッッ!!』


 数体の【ヴラーク】が、こちらにめがけて接近しているではないか。

 それも、三秒で間合いが縮まる距離。

 油断していた……っ。

 暗翔は舌打ちを鳴らすと、空中に躍って拳に力を込める。

 

「まったく……次から次へとっ!」


 叫んだ紅舞が、三発の火球を上空に放つ。

 暗翔の横を通り抜けた火の玉は、それぞれの標的に直撃。

 爆音を立てながら、皮膚が焼けるほどの蒸気があふれる。


「手助け、ありがとうな……ッ」


 五体の【ヴラーク】が打ち出した攻撃は、暗翔が全て避け、受け流し。

 正面まで肉薄した暗翔による五発の拳が、空気を押し出しながら【ヴラーク】たちに迫る。

 物体が破裂する音とともに、黒の結晶が浮かび散っていく。

 

「ふーん……中々やるじゃないの。転入生にしては、だけれど」


「暗翔だ。その転入生って呼び名はやめてくれ」


「……暗翔っ」


 紅舞はうつむきながら、小さく復唱する。

 何回か繰り返すと、顔を上げながら、ビシッと暗翔に指を向けた。


「人に指をさすのは、どうなんだ?」


「うるさいわねっ……話を戻すわ。名前はどこで知ったのかしら?」


 クラスメイトから、と暗翔は説明する。


「……なるほど、じゃあ――」


「それよりも、今はこうして雑談をしていて、いいのか?」

 

 未だ周囲から戦闘音が伝わってくる。

 しかし、ブラックホールから【ヴラーク】は出現することなく、その面積を縮めていっているのが視認できることから、山場は超えたと言っていいだろう。

 暗翔が視線を紅舞に向けると、彼女もまたこちらに目をやってくる。


「……そうね。く、暗翔のいう言う通り。話はまた後でと言うことで、良いかしら?」


「それで問題ない。紅舞との後日デート、楽しみにしているぞ」


「だ、誰が暗翔なんかにデートを誘うのよッ!」


 軽い冗談を交えることで、相手からの警戒心を取り除く。

 一ノ瀬紅舞、か。

 去っていくその背中を捉えながら、暗翔は内心でつぶやいた。

 まずは接触成功だな。




■□■□




 【ヴラーク】との戦闘後日。

 聞いた話によると、被害規模は少なく済んだらしい。

 各地で、生徒たちが結託して【ヴラーク】を撃退した功績である。

 暗翔はそんなことを考えていると、昼食を知らす鐘が鳴った。

 

「……ねぇ、少しいい?」


 掛けられた声の方向に首をやると、視線を逸らす赤色髪の少女――紅舞の姿が。

 

「うん? どうした」


「この前の続き。ついでに、一緒に昼ごはんでもどうかしら?」


「お、早速デートの誘いか。いいぞ、今日はまだ誰とも約束していないからな」


 暗翔が応える。

 ……ん?

 気のせいか、教室内から不自然なまでに視線を集めている感じが伝わった。

 紅舞は『人殺し』とクラス内から呼ばれている。

 こうして改めて周囲の様子を考えるに、あまり印象は良くないようだ。


「その前に……場所を変えましょう」


「あぁ。賛成だな」


 背中に無数の目を感じながら、暗翔は紅舞に続くようにして外へと出た。




■□■□



 

 控えめに流れてくる音楽。

 テーブルを挟んで、二人が向きあっていた。

 さて、と紅舞はコップを口元に運びながら言う。


「それで、なぜあたしの名前を?」


「クラスメイトからだ」


「……なるほど、だわ」


 静かにつぶやく声。

 暗翔は、ふと思ったことを口にした。


「なんでそんなことを気にしているんだ?」


「……」


 紅舞は口を閉じ、視線を下に動かしている。

 なにか、言いにくい事情でもあるのだろうか。

 ここは無理に答えを引き出さない方がよさそうだな。

 店員に運ばれてきたケーキを一口咀嚼(そしゃく)した暗翔は、話題を変更する。


「なぁ、そのパフェ食べないのか?」

 

「太るから、少し迷っているのよ」


「それじゃあ、俺が全て頂こうか?」


「……普通、そこは半分とかじゃないの?」


 ジト目を作り上げる紅舞。

 冗談だ、と暗翔は言う。

 少しの沈黙。

 しばらくすると、絞り出したかのような声が正面から響いてくる。


「警戒しているんでしょ? クラス内で『人殺し』って言われ、孤立しているあたしにこうして誘われているものね」


 どう返そうか。

 言葉を選ぼうか、思考を巡らす直前で止めた。

 いいや、この返答は間を置くほど相手に不安感を与える。

 笑みを浮かべた暗翔は、素直な気持ちを伝えた。

 

「俺的には、正直に言って嬉しかった」


「嬉しい……?」


「『人殺し』って物騒な呼び名を付けられた女の子と話せる機会が作れてって意味だ」


「それじゃあ、話した後の印象はどうかしら?」


 若干の震え声。

 暗翔は、その裏に隠された不安の色をしっかりと読む。


「名前負けならず、呼び名負けだな。普通に可愛い女の子ってイメージしか湧かないぞ」


「っ……あたしを、恐れない、の?」


「あぁ。いや、そもそも最初に話した時から警戒なんかしていない」


「なんで……?」


 ふっ、と優しく笑みを浮かべた暗翔は、紅茶のコップを置きながら発する。


「そもそも、怖ければ近付かない。それに、だ。紅舞は少なくともわざと『人殺し』をするような人間には見えない。言葉の裏に、後ろめたさが含まれているからな」


「っ……!」


 微かに眉根を動かし、息を呑み込む紅舞。

 本当は、もっと別の理由があるんだが。 

 紅舞本人には、決して口にできない。

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