表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

七話 乱入者

 攻撃の最中だった脚を止めると、眉根をひそめ、暗翔は不愉快を表情として浮かべた。

 スピーカーから鳴らされた、聴覚を破壊するかのような音量によって。


『警告、警告。人工島内に【ヴラーク】の出現を予測しました。推定レベルは二。学園内の生徒たちは、速やかに迎撃体制を整えて下さい。繰り返します――』

 

 【ヴラーク】の出現……?

 確か、先生がそんなことを口にしていた気がする。

 学園が創設された理由、だとかなんとか。

 記憶を手繰(たぐ)り寄せながら、暗翔は地面に着地した先生に視線を向ける。


「どうやら、邪魔が入ったっぽいですね」


 あいづちを打つ先生。

 暗翔君、と続けるように呼んだ。


「【ヴラーク】を撃退するのは、この学園及び生徒の役目ですにゃ」


「えぇ、すぐに行ってきますよ」


 どんな生命体なのか観察したいし、と心の中で付け加える。

 

「今から私は学園内に戻るですにゃ。その実力があれば、ある程度は【ギフト】無しでも対抗可能ですにゃね?」


「任せて下さい。特に、女性を落とすことには()けていますからね」


 口端を上げた暗翔に、先生はふっと笑みをこぼす。

 二人はくるり、と背を向け合うと別々の方向に足を進めていった。




■□■□




 ドーム状の建物から外へと移動すると、既に学園内には緊張感が張っていた。

 息を荒げながら駆ける生徒に、武器のような刀身を持ち運ぶ者まで。

 彼らは、流れに沿うようにして一定方向へと姿を消していく。

 向こう側から出現するのか?

 暗翔がその方角の空へと視線を当てるも、ただ朝の日差しが昇っているだけ。


「どれどれ……っ」


 生徒たちはどこに集まっているのか、ふと疑問に思う。

 脚を曲げ、蹴り上げるようにして空中へ。

 

「丁度良い場所は……校舎の屋根上でいいか」


 バタッ、と乱雑に足を着地させる。

 すると、街の中心部に生徒たちの集合を捉えた。


「ってことは、あの辺りに出現するのか」


 【ヴラーク】の姿は目にしたことがあるが、現れる瞬間は視認したことが無い。

 服の袖が軽く揺れる。


「俺も向かうとするか――」


 屋根上を降りようと腰をかがめたその矢先。

 一瞬だが、謎の浮遊感のような感覚が襲う。

 直後、ぐらっと頭がよろける。


「っ、なんだ……?」


 風にまかれたのが原因ではない。

 暗翔は眉をひそめると、続いて地面に着地して街方面へと身体を進ませた。

 視界に生徒たちの(たば)が入り込んだほどの距離で足を踏み止めると、手ごろな建物の上へと乗り移る。

 状況を分析、観察するためには、ある程度戦場から離れていた方が分かりやすい。

 

「さて、いつ出てるのか……ん?」


 疑問色の声をつぶやく暗翔。

 目線先は、空中に向かっていて。

 ビリビリッ、と剥がれ落ちるようにして、街上空の空間に()()()が入り込んでいるではないか。


「おいおい……まさか」


 徐々に周囲へと割れる連鎖が伝わっていく。

 ある程度の大きさまで広がったヒビ割れ。

 暗翔が、はっと目を見開く。

 ――直後、巨大な黒い影。

 言い表すとすれば、ブラックホールの見た目に近い。

 空中に現れた黒い球体は、割れ目を覆い、異様な光景を作り上げる。


「……っ!」


 気配を感じる。

 とっさに身構えた暗翔は、既に戦闘態勢に入っている。

 次の瞬間、現れた。

 異世界からの訪問者たちが。


『ガガギィァァァアガアカジィッッッッ!!』


 空間に響き渡る叫び声は、眉根をひそめるほどの不愉快を感じさせる。

 続くようにして、夜色に染められた球体の中から、次々と()()()が出現していく。

 空を飛ぶ犬猫、ヘビは翼を生やし、槍のような鋭い武器を手にした(はち)の群れ。

 

「これはどういうことだ……?」


 暗翔の頭に浮かぶ疑問符。

 あからさまに、敵たちには不自然な点があるのだ。

 自然界ではあり得ない特徴。

 それは、球体から現れた生命全てが黒い身体に塗り潰されていること。


「……あれらが、【ヴラーク】か」


 言って、暗翔はその場を全力で蹴る。

 一拍置いて、背後に爆発音。

 別の屋根上に着地すると、視線を数秒前まで居た所へとやる。

 木々の表面は壊され、周囲に瓦礫(がれき)が散っており、なにかが起こったことは明らか。

 微かに目を上に動かすと、ヘビに翼の生えた【ヴラーク】が。


「荒っぽい挨拶だな」


 注意は【ヴラーク】に置きながらも、暗翔は街の様子を捉える。

 金属が弾ける音、鼓膜に(とどろ)く爆発。

 いたる所で、戦闘が始まっているようだ。


「それじゃあ、こっちも挨拶返しと行くか」


『ガギィァォッッ!!』


 言葉にならない奇声を発しながら、ヘビの【ヴラーク】が威嚇(いかく)するように顎を開く。

 鋭い牙と黒い瞳が、殺意を暗翔に向けると同時。

 【ヴラーク】が飛びかかって来た。


「初めましてこんにちは……そして、さようならッ!」


 牙を光らせながら、距離を詰め寄った【ヴラーク】。

 攻撃が接近した瞬間に暗翔が横へ飛ぶと、細長い身体が屋根を突き破り穴を開け進める。

 その隙を逃すはずもなく、力を込めて放った暗翔の蹴りは爆音を鳴らしながら【ヴラーク】の闇色の身体を曲げた。

 グギャ、と悲鳴なようなものを上げたとともに、【ヴラーク】は空中に黒い結晶を撒き散らしながら消失。


「これは動物虐待に入らないよな?」


 むしろ、この生命体そのものが動物なのかが不明である。

 分からないことが増えていくな、と内心で思っている内に。

 暗翔は振り向きながら、拳を素早く抜き放つ。

 そしたら、攻撃を避けるように宙へと跳び、その勢いを使って足に力を込める。

 次々と迫る【ヴラーク】を正確に撃退していく暗翔。

 戦闘で足場を渡り走っていきながら、十……二十体と結晶に(ほうむ)ったのちに。

 槍を手にした蜂の【ヴラーク】が、暗翔を軍隊で潰しにかかった。

 襲いかかってくる突きの攻撃を躱す(かわ)そうと、身をそらしたその瞬間。

 

「やべ……っ」


 足が滑り、腰が暗翔の制御下から離れ、落下していく。

 液体によるもの――蜂たちが仕掛けていた(わな)か……ッ。

 暗翔が現状を理解するのは、目の前に槍が迫る寸前だった。

 まずいっ!

 【ギフト】もなにも所有していない暗翔は、鎧を着ていない戦士と同様。

 無防備という言葉でしか表せない。

  

「ッチ、避けられない……っ!」

 

 態勢を崩して後ろから落ちている以上、身体は動かせない。

 舌打ちをした暗翔は、顔をしかめる。

 こんなところで死ぬのか?

 諦め、死を受け入れようとしたその時。

 眼前に、激しく燃え上がる炎が出現し。

 蜂の群れを、全て焼き払った。

 はっ、と気配を感じとった暗翔は、横に視線を向ける。


「命拾いしたわね、()()()?」

 

「ッ……お前は……っ!」


 驚きの色を表情に浮かべた暗翔。

 嫌味を混ぜたような言葉には反応を示さず、声の主の姿が。

 そう、彼女は――。

 唯一、クラス内で一人隔離されていた少女であり。

 また、暗翔が不自然気味に注目をそそいでいた人物。

 無意識に、名を呼んでいた。


「『一ノ瀬紅舞(あかり)』……っ」

よろしければ、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価、またブックマーク登録をお願いします!

作者が泣くほど喜びます

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ