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世界最強の暗殺者にとって、学園無双なんて簡単過ぎる仕事だろう?  作者: 座闇 びゃく
第三章

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五十四話 厄災

 鉄柵の扉が開くと、暗翔の身体を乱雑に外へと投げ出した。続けて、紅舞も強引に出されてしまう。

 誰かと思い、見やると全身に黒コートを纏った人影。【レグルス女学院】理事長である。

 暗翔に狙いを定めるよう、理事長の片手が上がった。握り締めていたのは、ただの拳銃。躊躇うことなく、引き金に手を掛けると、指を引く。

 五度の発砲音が、耳をつんざく。なにが起きたのか分かっていない様子の暗翔の首が、ぐらりと力なく横たわる。


「う、嘘……え、く、暗翔……ッ」


 紅舞の顔色が、青ざめたものへと染められる。どろっとした赤液体が、彼女の足元に張り付く。うぇっ、と嗚咽すると、濃厚な鉄分の臭いがさらに顔色を悪くさせていた。


「これで能力(ギフト)はボクの手に――」


 宝石を握り締めた理事長。だがしかし、次の瞬間。その場に片膝を付き、腹部を押さえた。治癒を終えた暗翔の蹴りが直撃。ステップを踏み、距離を取る。


「馬鹿な……頭に弾丸を五発も入れたんだヨ!?」


「その程度じゃ死ねないな……って言いたいところだが、もう一発喰らってたらやばかったぞ」


 唇に笑みを刻んだ暗翔が、手首を鳴らした。


「ッ……ならもう一度銃弾をあげるサッ」


「そうは行きませんことッ!」


 理事長が向けた銃口先には、既に暗翔の姿が消えていた。割入った夜雪の能力(ギフト)によって、退避したのである。

 理事長は激怒したかのように数発地面に射撃すると、リロードを行った。

 夜雪に連れられ、サクト含む工作員が後方から到着。数人に囲まれた理事長は、怒りを露わにしたのか、大きく舌打ちをした。


「ッ……いいヨ。それじゃあ、この少女を殺せばサ」


 紅舞が持ち上げられると、拳銃を額に向けられた。抵抗しようと炎を手元に宿すも、理事長の脅しに怯えたのか、灼熱が消えてしまう。


「やめたほうが身のためサ。例えボクが倒されたとしても、その前に引き金ぐらいは引けるヨ」


 唇を噛んだ紅舞が、憎むように理事長を見上げた。真っ赤に染まった髪の毛が、項垂れている。


「く、くら……と。助けて……ッ」


 その間に、錠を外してもらった暗翔。

 理事長に促され、一同は武器を地面に置いた。暗翔が指名されると、前に出ろと指示される。

 隣のサクトが、涼しげな顔で口を開く。


「一ノ瀬紅舞か。彼女は殺害対象だよ? 無視して理事長諸共殺すのが正しい選択だと思うんだけどね」


「紅舞さんが殺害対象でして……? 許せませんわ、そんなこと。兄様ッ、わたくしがっ」


「これは俺に与えられた命令だ。夜雪は下がってくれ」


「……暗翔ッ」


 五秒あれば、恐らく理事長を殺害できるだろう。だが、その前に紅舞が犠牲になってしまう。猶予はない。

 サクトの言う通り、このまま紅舞を見捨てるのはどうなのだろうか。理事長を殺し、紅舞も死亡。組織的には、まさしく理想の展開。

 暗翔が片足を僅かに後ろへ下げる。銃弾を貰った反動で、くらくらと脳裏が脳震盪を起こしているかのよう。

 組織が望むように――否。それでは、ダメなのだと、全身が。心が訴えかけている。組織は暗翔の人生であり、居場所であり、絶対的な存在。

 その前提が、紅舞と出会ってから崩れつつあった。

 暗翔は、一歩前に出る。ニッ、と理事長が不気味なほどに笑みを浮かべると、拳銃がこちらに突き付けられる。避けようと思えば、不可能ではない。しかし、暗翔はその場を動かなかった。

 六度の衝撃が、全身を襲う。

 能力(ギフト)による再生能力は、もはや追い付かない。治癒という効果はあるが、即死するほどの外傷では、それも叶わない。倒れ掛けながらも伸ばした腕は、紅舞へと届かない。

 紅舞や夜雪と過ごした日常は、幸せだった。やっとの思いで叶った仮初めの日々が、手から滑り落ちるよう砂のように、こぼれ落ちていった。

 暗翔の身体が地面に倒れ込む。一瞬の間が場を支配。次いで、狂ったように笑う声が、沈黙を破り捨てた。


「ははっ……やっと、やっと殺したァ! これで初代【ヴラーク】の能力(ギフト)はボクの手にッ!」


「やだ……くら、と? ねぇ、ねぇ……暗翔ってば!?」


「兄様っ……嘘って言って下さいッ」


「っ……これは予想外だね」


「その能力(ギフト)……いただくヨッ」


 理事長が、事切れた死体に向かって石ころを投げる。かたっ、と乾いた物音。

 次の瞬間――暗翔の身体が、漂白したかのように、真っ白に染まっていく。

 壊れた操り人形のごとく、ぶるぶると全身が震える。突如として、背中に二本の翼が生えてしまう。頭にはツノが二つが、鋭く伸びた。

 誰もが言葉を失い、立ち尽くす中、暗翔の姿をした何者かが両足を地面に着けた。顔面まで白色が広がり、生きている人間とは別次元のなにかとしか言いようがない。

 圧倒的な威圧感とも呼べようプレッシャーが、全員の身体を締め付けあげていた。


「久々に小僧の身体から出られたと思ったら……ふん。我の復活を祝っている、という訳ではなかろうな」


 ギョッと周囲を見渡した何者かは、つまらなそうに呟き捨てた。すると、目を剥き出した理事長が、彼を指差した。


「ぼ、ボクの能力(ギフト)だよネ? 誰だい、キミ。動くと殺す――」


「目障りだな。『第ニ章』の開幕だ――失せろ、人間」


 瞬間、暗翔の姿をした何者かの背後に、四つの書籍が具現化する。それぞれが自在に宙を浮かぶ中、一冊の本がぱらぱらと捲られていく。

 火花を散らしながら、轟々の雷撃を(まと)う一振りの槍――グングニル。爆発的なエネルギーを誇るその武器を、容易く握り締めたその男は――理事長に向けて槍を放った。


「……は? え、ぁ……がぁっ、ダァァァッ」

 

 穂先が摩擦を帯びながら、グングニルの通った筋を雷光が駆け抜ける。目標の胸元を貫いた槍が、秘めていた質量を爆発。雷撃が、辺りの壁に駆け走る。轟音を鳴らし終えると、肉の焼けた生臭さが充満。

 グングニルを身体で受け止めた理事長の身体は粉々に粉砕され、塵の山がその場に盛り上がっていた。


「『第一章』の開幕だ。貴様らに用はない。小僧の身体もろとも貰うぞ」


 二冊目の書籍が捲られたと思いきや、長身の火縄銃が片手に収まった。天井に向けて発泡した矢先。姿そのものが壁の中に溶けてしまい、消えてしまう。


「……あ、あれって暗翔……じゃないわよ、ね」


「えぇ。恐らくですが……」


 夜雪が口元を滞らせる。代わりに、サクトが言葉を述べた。


「あれは初代【ヴラーク】さ。紛れもない、最悪と謳われた厄災だよ」


 


■□■□

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