四十七話 それは唐突に
「暗翔と夜雪さんって、この島に来た時からやけに距離感近いわよね? 大陸の方でも一緒に暮らしたの?」
「えぇ。それはもう、朝から晩までベットの上で」
「あぁ、寝てたな」
「……はぁ!?」
紅舞の叫び声が、閑散とした通学路に吹き抜ける。肩をすくめた暗翔は、眉根を端を上げた。
「子供の頃だ。実の兄妹みたいなものだったしな」
「あら、紅舞さんってばどうしたのでして? まさか、卑猥な妄想でもしていたのではありませんか?」
「ち、違うわよ……ッ」
「あのな、朝からそういう話は――」
仲裁しようとした矢先。デバイスが振動する。暗翔と同じように、二人もデバイスを掴んだ。どうやら、一斉に通知が入ったらしい。
三人は顔を合わせると、通知音がそこら近辺から時を同じくして響き渡った。
リズムの合わない合唱を聴くように、多様な音がここら一帯を支配していた。
『これより【レグルス女学院】及び【アルカディア魔学園】ランク争奪戦を開始致します。【実践戦闘】起動――両校の全生徒を対象に、擬似空間への転送を許可』
唐突にデバイスから告げられた情報。飲み込めない状況を脳裏に棚置きすると、暗翔は警戒するように身構えた。
一斉の通知に加えて、承認していないにも関わらず、自動で起動された【実践戦闘】。
両校の生徒には、なんの通達もなく行われるということか?
「突然過ぎないかしらッ」
「やばいな。夜雪、紅舞。俺に掴まってくれ」
「はぁ!? なんで暗翔なんかに……っ。いやらしいことされそうなんだけど」
デバイスに表示された秒数は、残り二十秒を切っている。
「【実践戦闘】の具体的なルールが分からない。それに加えて――」
「転移先が多数の敵で囲まれてしまっているケースも考えられる、でしてよ」
夜雪は、冷静沈着さを保っていた。事態を客観的に把握しているらしい。実力差では上の二人に諭されたためか、紅舞は唇を尖らせた。
そういうことなら、と遠慮がちに左腕を掴む紅舞。一方の夜雪はというと、がっちりと右腕に身体を密着させている。豊満な肉肌が、贅沢にも腕を包み込んでいた。
暗翔は意識を腕元から【実践戦闘】へと切り替えたと同時に、浮遊感覚が足元を襲った。
視界が開けるも、なぜか目の前の景色は変わっていない。見慣れた登校通路。先程まで足を着けていた地点に、三人は転移されたらしい。
正確には、【実践戦闘】によって作り出された人工島の異空間といったところだろう。
「怪我はないか、二人とも」
首を縦に振る紅舞に、夜雪は軽く相槌を打った。
警戒するように周囲を見渡しながら、デバイスに目を向ける。
――ルール。
相手の学園生徒を倒した人数に応じて、各校代表選抜を行う。【実践戦闘】。
両校は同じ学園の生徒に対しての攻撃は可能。時間制限は三時間。
現時点よりランク争奪戦を開始。
「っ……紅舞、夜雪ッ」
瞬間、暗翔は二人の腕を引きその場から飛び跳ねた。次いで、鼓膜を突き刺すかのような爆撃音が響いた。空中に躍り出ると、地上へ視線を下ろす。
先程立っていたアスファルトが、粉々に破壊されてしまった。事態を引き起こしたのは、巨大な鉄球。地面にめり込んだ鉄球は、無境なく辺り一面を瓦礫の山に変えていた。
一秒でも反応が遅ければ、潰されていたのは暗翔達であっただろう。
敵を四人目視。距離にして二百メートルといったところだ。
「俺は身体を支えてるから、二人に任せたぞ」
「なんなりと、兄様っ」
「言ってくれるじゃない。望み通り頼られてあげるわよ……ッ」
暗翔に掴まれたままの姿勢で、二人が動く。夜雪がナイフを投擲し、無数の業火を紅舞が操る。近場に居るだけで皮膚が爛れるのではないかと錯覚するほど、息をするのも苦しい。
光速に迫るスピードで肉薄したナイフが、四人の四肢を貫く。畳み掛けるように、虚空から生み出された巨大な熱源達が、敵を飲み込むと、爆発を起こした。
「ナイス連携だったぞ、二人とも」
「暗翔、右側からッ」
紅舞が指示する方向に目を向けると、鎖から解き放たれた鉄球がこちらに迫っていた。三階建てアパートですら、容易に押し潰すことが可能なほど大きい。まともに喰らったら、全員一撃でリタイアだろう。
空中での移動は不可能。迫る――三秒、二秒、一秒。
鉄球から放たれる風圧を利用して、暗翔は捻りの運動パワーを付けると、純粋な力で蹴り返す。甲高い破裂音とともに、鉄の残骸が敵に降り注ぐ。
唇を切ったのか、微かに血の味が唾液と混じり合っていた。
もはや周囲一帯は、見るも無惨なほどに地面が噴流している。
空気が震える。複数回の爆撃音が、空中に存在する微粒子を揺らしているのだろう。視線を動かすと、辺りには漆黒色の球体が五つ浮かび上がっていた。次の瞬間、膨大な
着地すると、夜雪が名残惜しそうに腕から離れた。
「わたくしは別行動致しますわ。同じ【アルカディア魔学園】の生徒方が心配でして。それと、単独行動の方が能力との相性も抜群でして」
「分かった。気を付けろよ」
「はい、兄様もどうかご無事で。それと、紅舞さんも。イチャイチャはほどほどに」
「一言余計よッ!」
影に溶けると、夜雪の姿が見えなくなってしまう。
緊張の糸をほぐすかのように、紅舞が手を引っ張り伸びをした。
「……相変わらずめちゃくちゃな力ね。最初の反応速度と言えど、なにかやっぱり隠しているわよね? 能力なのかしら」
暗翔は俯き、首の後ろに手を当てた。沈黙は不味いと思い、言葉を絞り出す。
「……そんなに俺のことが知りたいのか」
「だって、いつも隠し通しているじゃない。あたしのことが信用ならないってことかしら」
紅舞の視線は、明らかに疑惑に満ちた色をしている。眉根を顰め、額には複数のシワを浮かべていた。
腰に手を当てたと思いきや、不愉快げに鼻を鳴らされる。
「そういうわけではないんだが……」
「ならいいじゃない。一つぐらい秘密を共有しても――」
紅舞が言い掛けたその矢先、暗翔が走り覆い被さる。次いで、背中に鋭利なものが通り抜ける感覚。
ぶはっ、と口元から吐血。鼻筋に生臭い鉄分の苦味が膨れ上がっていく。
舌打ちした暗翔が見上げると、顔面にカラスのマスクを被った人影が辺りを囲っていた。
「悪いが、貴様達にはここで死んでもらう」
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