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世界最強の暗殺者にとって、学園無双なんて簡単過ぎる仕事だろう?  作者: 座闇 びゃく
第二章

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三十五話 誘導と危険

 その場を蹴り上げると、刃先が寸前まで居た場所を切り抜ける。唇を舐めると、濃い鉄分の臭い。最初の攻撃は避けたと思っていたのだが、どうやら当たっていたらしい。

 地上から身を飛び出し、宙へと躍り出た夜雪。落下する暗翔に合わせて、刃を振った。空気中に散乱する分子をも切り裂きながら迫る刀。

 大きく舌打ちをした暗翔が、十字に腕をガードする。右腕に刃を通され、激痛が顔を歪ませた。荒々しく流血する音が、鼓膜を貫く。


「どうして俺を狙う。組織がそんなに不満か?」


「わたくしにはわたくしの目的がありまして。そのためには、兄様であれ殺さなければならないのですわッ」


 着地すると、目の前に数本の投擲ナイフが肉薄。力任せに踵で地面を蹴り落とすと、飛び出た床の木材破片で防ぐ。姿勢を低くすると、頭上を刃が通過。しゃがみ込んだまま夜雪の足元を引っ掛けようとするも、宙に飛ばれ、可憐な回避を見せられる。

 

「まだまだ甘いな。誘導したんだぞ?」


「なっ……」


 木材破片に突き刺さったナイフを引き抜くと、全身を捻り出して飛ばした。一秒も経たず目標を捉えたナイフだったが、刃先に弾かれ、甲高い音とともに落下。しかし、空中で無理な姿勢を取った夜雪の着地は、僅かに体勢を崩してしまった。

 暗翔が隙を突いて、強引に首元を掴むと、地から離して掲げた。


「勝負あったな。不可能だよ、夜雪には。お前を暗殺者に育てあげたのは、俺なんだからな」


「ッ……そう、でして? 無策で兄様に挑むとでも思いですこと?」


 乱れた呼吸の中、なぜか夜雪が不敵に唇を歪めた。瞬間、暗翔の身体が床に倒れ込んでしまう。指先に込められた力も抜け、敵が悠々と手元から逃れた。

 戦闘前に感じた目眩(めまい)が、激しく脳内を駆け巡る。視界がぼやけ、傷口の感覚も鈍くなってしまう。


「っ……これは」


「やっと回ったようですわね。神経系に効く猛毒ガスですしてよ、兄様?」


「……ふっ、なるほどな。アールグレイの香りはフェイクか」


「えぇ。ほぼ臭いは有りませんが、兄様ならば察知するかも知れません。全てはこの場を整えるための演技に過ぎませんわ」


「だとしても、夜雪自身にも効くはずだろう?」


「兄様ったら、わたくしの身を案じているのでして? お優しいこと。ですが、心配には及びません。わたくしは既に何度も使用しているので、耐性があるのですわ」


 そうか、と暗翔が乾いた笑いを漏らす。刃先が心臓に狙いを定めるかのように、真上の位置に移動。

 説得は不可能に近い。四肢は満足に動かせないどころか、呼吸すら麻痺で辛い。

 礼儀正しく頭を下げた夜雪の顔面には、微笑が貼り付けられていた。


「あの世でお会いしましょう、兄様」


 刀が両手で握り締められると、振り上げられる。逃げられない。致命傷は避けられない。


「……すまない、夜雪。俺はお前を守りきれなかったみたいだな」


 ただの独白じみた暗翔の言葉。貫くはずだった心臓の位置には刃先がおらず、右肩にずれていた。

 感情による判断能力の低下。会話を通じての戦闘において、夜雪は暗翔の言葉に動じたのか、簡単な誘導に引っ掛かり、わざわざ隙を晒してしまった。

 本来、夜雪は暗殺のプロ。不自然な行動や隙を見せるはずがない。夜雪自身が口にしたように、全て計算された戦闘でなければならないのだが――。

 誘導に引っ掛かかってしまうというミスだけは、夜雪の計算外であると考えた。


「なっ……なぜこの毒の中を!? どんな猛獣でも、動けなくなるのでしてよッ」


 夜雪が後方に下がり、驚愕するように叫ぶ。それもそのはず。猛毒ガスが充満した室内で、暗翔は何ともないように立ち上がったのだ。


「暗殺者の端くれだぞ? 毒への耐性は三十秒も有れば付く。そんな訓練は既に何百回として来たからな」


「ッ……ですが。流石に紅舞さんを失っては、兄様の立場も危うくなるのではなくて?」


 夜雪が影を伝い紅舞へ近寄ると、未だに倒れ込む肉体へ、刃先を向けた。

 

「……っ、まずったな」


 瞳が物語っている。抵抗すれば、容赦なく刀身を突き刺してしまうと。

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