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聖天海武  作者: 弌樹カリュ
第一部 西海殿の武神官
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9話 五人

「容赦しねえぞ?」



 静客からシンへ向けた宣戦布告。

 二人以外の面々はどこか緊張した、今にも戦いが始まりそうだ、という雰囲気が醸し出されていることに気付いているようだった。


 しかし、当の本人、シンはそれに答えようとはしない。

 いくらかの無言があって、シンは両手を上げていった。



「降参だ。ケッ。別に俺は手前と争いてエわけじゃねエ。此奴がオトコでもオンナでも俺には関係ねエ話だ」



 先程までの勢いはない。



「でも、済まン。手前を傷つけるようなつもりじゃなかったンだ。許してくれ」


「ルルメヌォット、コイツを許してやってくれねえか?」



 和解した様子の二人にルルメヌォットは顔をほころばせて、



「ええ、もちろんよ」



 大きく頷いた。





「――――ンで、何でこんなに到着が遅い? 手前は」


「ん?」



 覇気を見せるシン。

 質問の意図が理解できていない静客に、ルルメヌォットが口を開く。



「うーんとね、アタシたち、神殿の中に入ろうとした、四人全員そろってからだって言われちゃったの。あっ! そこの精霊ちゃんは数えられていないのかしら? でも、きっと精霊なら入れるはずよねえ」


「もう! ぼくの名前は精霊ちゃんじゃないっ!」



 どこからともなくジェスの体を光が包み込んでいく。



「ぼくは、すっごくすっごく偉い上位精霊。西海殿の守護者の肩書を持つ、ジェスターニ様だっ!」



 その途端、静客を除いた三人の顔色が青白いものへと変化し、一斉に跪く。



「うおっ!? どうしたんだ、オマエら!」


「何をしてンだ、手前は! 上位精霊ジェスターニ様と言えば、西海殿とその周辺、西海の港町、渦なンかをたったお一人で守護された過去を持つ最強の精霊の一角と名高い精霊じゃねエか! なんっちゅうモンを連れて来てンだ!」


「静客、これで理解したか? ぼくがいかに、上位精霊としてすっごくすっごく偉いということを。シンの言う通りだ。いち神官や人間からしてみれば、ぼくは崇拝対象と言っても過言ではないっ!」



 調子に乗っていた。

 久しぶりに自分がいかに、「すっごくすっごく偉い上位精霊」であるかを他人の口から聞いたおかげで、すっごくすっごく調子に乗っていた。


 しかし、それを咎められるような者は静客ぐらいしかいない。

 口先では静客をどこか責めるように話しているシンですらも、首を垂れている。



「ぼくと比べれば、稚拙としか言いようがないきみたち神官を支援し、保護し、守護していくのがぼくが天帝様から仰せつかった役目だからね! きみたちの非礼は、今後の活躍に――――あ、いたっ!」



 調子に乗っている者を一瞬で黙らせる静客必殺の「黙れ手拳パンチ」が繰り出される。



「何するんだ! せっかく、ぼくがきも――」



 ――気持ちよく話しているというのに!


 そんなジェスの心はお構いなし。



「オレは偉そうなヤツ嫌いだから! オマエが勝手にオレは偉い、敬え! って言うのは自由だから良いけどよ、それを他人に矯正するような言葉は看過できねえな! これが天界じゃ普通なのか?」


「ぐっ! 確かに、ぼくが佳幻に封印されるよりも前に、ちゃんと精霊として活躍していたぼくの姿をすっごくすっごく見ているような奴らはそこまでしないけど……」


「なら必要ねえだろ! ほら、立て立て!」



 暴論過ぎないか。

 ジェス以外もちょっとだけ思っていた。


 静客に立たされた三人は、どこか決まりが悪いような、締まらないような雰囲気を持っていた。

 唯一静客だけが、のけっと平然としている。



「静客に言われた通り、ぼくはすっごくすっごく偉い上位精霊であることに変わりはないけれど、そのことに対して跪いたり絶対服従をするようなことはしなくていいよ……というか、多分、ぼくが静客からぼこぼこにされる」


「おう! 当たり前だ!」


「全く嬉しくないんだけど……」



 しょんぼりとするジェス。

 空気を変えようと、ロロが大きな体を揺らして立ち上がる。



「四人――ともう一人、計五人が揃ったところだし、神殿の中に入ろうではないか! パパランタ、パパランタ!」


「そうしましょうっ! きっと、アタシたちを歓迎するための宴の準備に手間取って、それを隠すために四人そろってから、なんて言ったのよお」


「ケッ。能天気なこと言ってンぜ」



 神殿を囲う、城壁は巨大だ。

 神殿といっても、ただ神官の役所がある場所だけを指しているのではない。


 周辺の神官が住まう『神官街』や神官候補たちの聖天人とも呼ばれる、人間と神官の亜種のような存在も平然と生活している。法力の環を持ち、法術を使える神官たちとそうではない人間たちとではあまりにも大きな差がある。


 そのために、どうしても居住地に見ない壁のようなものがあるのだ。

 神官街や聖天人の居住地は、神殿の周辺の「下町」と言われている。


 神殿と下町。

 その両方を囲っているのが、静客たちの目の前に立ちはだかる城壁なのだ。


 ロロがその大きな手で扉を叩く。

 すると――――



「あっ!」



 ――――扉がへこんだ。

 五人の息ぴったりな声が漏れて、空気がどこか冷えたものになる。



「こ、ここはオレがやるからよ! ロロ、大丈夫だ! きっと話せば許してくれるよ!」


「吾輩、力が強すぎるのだな……」



 トルート一族の里――つまるところ、ロロの実家――では、そんなことはなかった。

 ロロは一族の中でも最も大きかったが、一族全員で体つきや諸々が大きいので、必然的に家具や武器も屈強なもので、更には巨大化する。


 なので、里の外での「ロロから見れば」小さいモノたちの扱いに少し困っている。



「たのもーーーーーっ! 誰かいねえかーーーーー!」


「ケッ。そんな声を張り上げるだけじゃだめだ。俺の足技を見とけよ」



 そう言ったかと思えば。

 すぐにシンが駆け出し、全力で門の扉に蹴りを入れる。


 しかし同時に門の扉が開いていき、シンは空中に放り込まれることになる。

 慌てるシンにロロが飛んだかと思うと、すぐにその体をつかんだ。



「た、助かった。礼を言う。ありがとう」


「細事細事! パパランタ、パパランタ!」



 大男から見れば命の救出なんて細事らしい。

 静客はロロへの評価を見直し、開かれた扉の向こう側にいる面々に目を向ける。


 たった二人だけがそこにいた。



「西海殿へようこそ。我々西海殿神官一同は、新たな神官の誕生を歓迎いたします」


「一同って言っても……二人しかいねえぞ?」


「ぼくに言われても……でも、あいつに言われた通りの言葉を鵜呑みにしちゃいけない雰囲気だね。これはすっごくすっごく嫌な予感しかしない」



 二人の内、顔を白塗りしている神官が一歩前に出てくる。



「貴公らを歓迎したいのは山々だが、ただいま、神殿内部では騒動が起こっていてな。神殿門から中に入り、神殿を通過し、下町に滞在することを条件にここの通行を許可するがどうする? 騒動が収まるまでここで待つか、下町で待つか。選ばせてやろう」



 ジェスよりも偉そうなやつだな。

 静客の印象はその程度で、話は当然、聞いていなかった。



桃園トウエン。騒動というのは?」



 誰も口を開かない中、ジェスだけが口を開いた。

 白塗りの神官はジェスの知り合いだった。が、ジェスが「解放」されたことは知らなかったようで、目を見開く。



「ジェスターニ様……お戻りになられたのですか?」


「ああ、長い間、留守にしていた。そちらの赤武については知らないけど、桃園、きみ青武になんてなったの? 時の流れは本当にほんとに早いものだね」


「こちらの武官は公園と申しまして、わたくしの甥にございます。ジェスターニ様が姿を消した後に神殿入りを果たしましたので、知らなくて当然かと思います」



 仰々しかった白塗りの神官、桃園の雰囲気が。

 旧知のジェスに出会えたことでどこか丸くなる。



「それで、騒動というのは? 神殿の騒動で、新しく神官となったこの子たちを迎え入れられないほど大変、というのは封印される前じゃ聞いたことがない」


「ですが、こやつらがいる手前……」


「ああ、成る程。じゃあ、ぼくを神殿に連れて行ってよ。静客、それでいいかい?」


「オマエ、危害を加えるなよ!」



 静客の釘付けに勿論だ、と頷くジェス。

 桃園とジェスが姿を消し、後には静客たち四人と赤武神官の公園コウエンだけが残っていた。



「別にここで待ってても面白くねえし、下町に滞在するので賛成か?」



 静客の言葉に、一同、頷く。

 公園にその旨を伝えると、中に入ってもよい、という許しが出され、四人は門の中を通過していく。


 そして開かれた先には――――



「すっげえ! まじでけえ! 半端なくすっげえ!」



 絶句するというよりも、ただ感動の情がこみ上げてくるような景色が広がっていた。


 人、人、人、人……

 どれだけ数えても数えきれない程の人が、それぞれの目的を持って、往来している。


 公園は興奮するロロと静客を抑えながら、懐から巾着を取り出す。

 ちゃり、とお金の音が鳴ったかと思えば、シンの目がそちららに向かう。

 怖いという言葉を飲み込んで、公園は説明をする。



「下町での問題行動はご法度。判明次第、神殿より処罰が下る。また、『下町金貨』を渡しておくので自由に使いなさい。今回、一切使わず貯金するのも良しだ。一人五枚ずつだ」



 公園は一人一人に手渡していく。

 誰よりも嬉しそうにお金に頬ずりをしたり、両手を広げて載せているお金に視線が向かっているのはシンだ。


 シンは、無類のお金好きなのだ。

 子供がお小遣いでもらうような額だったとしてもシンからすれば、お金であればいくらでも嬉しいのだ。


 そう。――――頬ずりしてしまうほどに。


 どこか怖かった雰囲気の桃園とは対照的に朗らか、とまではいかないが、動かないなりに無表情をなんとかしてぎこちない笑顔で公園は四人から離れていく。



「下町を楽しむように。聖天海武のお導きがあらんことを」



 あとに残さされた四人は公園を見送るでもなく、一目散に近くにあった屋台へと突っ込んでいった。

レッツ・下町エンジョイ――――――――――――!




ふぉいふぉいふぉいふぉいふぉい!

新キャラ、桃園トウエン公園コウエンが登場しました!

桃園のイメージは歌舞伎の白塗りの方のような感じ? 仕事の時は白塗りでオフではどうなんでしょ

公園の名前は、公園からとったのではなく、桃園の一族で公って字を使いたいな……と何も考えずに思っていたら、公園になっちゃいました。

それぞれ青武と赤武ですので、静客からすれば四、三つも階級が上なんですね。ひえっ!


次回は『10話 下町懇親会』です! おたのしみにーーーー!

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