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聖天海武  作者: 弌樹カリュ
第一部 西海殿の武神官
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4話 目的地へ



「――それでジェス、西海地方まではどうやって行けばいいんだ?」


「がくっ……『目的地へ行くか!』なんて格好つけてた癖にどっちにあるか分からないの!?

 ……ああ、そういえば、地図の読み方も分からない迷子って言ってたもんね」



 ジェスの言う通りだ。

 いかんせん、国の中でも僻地って言われるぐらい、都から遠い内竜山脈とだけあって、旅の仕方はよく知らない。


 なにせ、旅するときはいつも彼奴まかせだったからな。



「じゃあ、まずは佳幻から貰った地図を見せてくれる?

 ぼくもここがどこだかは正確には分からないんだよね……多分、南丘地方のあたりだとは思うんだけど……」



 ジェスに言われるがままオレは懐から地図を取り出す。

 ……ちっこいくせに、『すっごくすっごく偉い上位精霊』と豪語するだけあって、オレの役に立ちそうだな。



「失礼なこと考えているでしょ! 全く、これだから品のない神官は……」


「なりたてだからよくわかんねえけど、オレはオマエに対して特別扱いしないぞ!」


「やめてよ。まるでぼくがそんなふうに扱ってほしいって思ってるみたいじゃん。

 ぼくはただ、すっごくすっごく偉い上位精霊に対して敬えって言ってるの!」



 って、言われてもなあ……

 オレの法力で一命をとりとめた雑魚精霊にそんなこと言われてもなあ。



「恩着せがましいって!?」


「いや、言ってねえよ。

 オマエへの態度は、貢献度によってぼちぼち見直すとして、地図分かったのか?」


「こう見えてもぼくは、すっごくすっごく偉い上位精霊だからね! 何度も言わせないで」



 じゃあ別に何度も言わなくていいのに。

 そんなことを言うと不満たっぷりの顔になって「きぃー!」って怒り出すのは想像に難くないので、オレはもちろん無言を貫く。



「静客に目くじら立てても何も始まらないから、地図の見方を教えるよ。

 地図ってのにはね……」



 ふむふむ……ジェスに教えてもらった地図の見方は、結構、役に立ちそうだった。

 偉そうな口調だけど何かを教えるのには向いているんじゃなかろうか。



「――ここまでが地図の見方だったんだけれど、この地図はね、ちょっと不思議な法具の一種だから、あんまり参考にならないかも」


「なぬ!? それじゃあ、今の時間は何だったんだ!」


「そんなに言う事じゃなくない?

 下界に降りれば必要な知識だし、法力を使わなくても読めるただの普通の地図の見方は結構役に立つ知識だと思うけど!」



 なるほど。

 法具のことを、万能の便利道具だと思っていたけれど、法力で動いている分、法力がなければ使うことができないのか。



「それでね、この地図の法具は、下の丸いところに親指を当ててみて」


「こうか?」



 長方形の古びた地図の下の方の中央に赤い丸がある。

 親指を当ててみると地図とオレの右腕につけられていた法力の環が同時に動き出して、地図の絵が動き出した。



「なんだこれは!」


「すごいでしょー! これはね、自分が動くと地図も連動するようになってるの。

 どこに自分がいるのか一々確認しなくていいし、さらになんと!

 目的地を設定すると勝手に案内してくれるの!」



 やっぱ法具は、万能の便利道具に違いない。

 地図の読めないオレでも、誰かに行きたい場所を伝えて目的地を設定してもらば、迷わずに到着できるはずだ。



「じゃあ、それが分かったらここまでだな! ありがとうジェス! 楽しかったぞ!」


「いやいや! ぼくと静客、目的地一緒だし! それにぼくら、契約結んでるし!」



 どうやら、ジェスはまだオレについてくるようだ。



「じゃあ、地図を見て進むか!」



 歩き出したオレに「やれやれ……」と言い出すジェス。

 なんだこのあからさまに人を馬鹿にしてくる態度は……まあ、それは出会ったときから変わっていないか。



「やれやれ、全くだな! すっごくすっごく偉い上位精霊であるぼく、ジェスターニからの助言を聞きたいか?」


「うーん、何を話すのかは気になるが、そんなにいわれるとなあ……」


「そういう時は、ありがたく聞きます! って言っておけばいいんだよ!

 人間は徒歩で旅をするかもしれないけど、神官やぼくみたいな精霊たちは飛べるんだよ!」



 なんと。飛べるのか。

 でも、オマエもオレも羽なんて生えていないんだがな。



「あのねえ、鳥みたいな下等生物とは違って、ぼくは上位精霊だよ!

 羽なんてなくても、法力さえあれば飛べるの!」


「おお! オマエ、やっぱり言い方は気になるけど、すげえな!」



 さすが上位精霊だ。

 ジェスに教わった通りに、オレは「飛翔」と呟いて、法力の環に集中する。


 体の中で法力みたいな「何か」が動いているような気がして、ちょっとむず痒いがそれも一瞬のことで、オレの足元は徐々に地面から離れていった。



「うん、やっぱりぼくが主人として認めただけのことはあるね。筋がいい」


「オレは剣術に関しては天下一! いや、それは言い過ぎた。内竜山脈一と言われたからな!」


「いや、地元一って規模小さいし、剣術なんて関係ないんだけど」



 白い目で見られてしまったけれど、そんなことは気にしない。

 一々気にしていれば男が廃れるっていうもんだ。



「ちょーっとぐらい気にした方がいいとおもうけどね。

 じゃあ、地図を見て、さっさと西海殿まで行くよ!」


「応!」



 道中はジェスに色んな事を教えてもらった。

 曰く、こんなふうに飛翔の法術を使うのは、下級神官だけだそうだ。


 佳幻様みたいな上級神官と呼ばれる方々は、「飛翔」で飛ぶのではなく、転移の法術を使うらしい。


 昇級するたびに他にも色んな法術を教えてもらえるそうで、オレは西海殿で頑張ろうと奮起していた。


 幾十の山を超え、川を通った。

 やがて、大きな大きな山脈が見えてきて、頂上が白く染まっているのを見て、内竜山脈を思い出した。



「まだ村のみんなと別れてから二日も経っていないって言うのに、妙に会いたくなるな……」


「そういうもんでしょ。すっごくすっごく偉い上位精霊のぼくでも、母さんの元を離れるのは悲しかったからね」


「え、ジェス、母さんいたの?」


「あーたり前でしょ!

 静客はなにか誤解しているみたいだけど、精霊は人間みたいに母のお腹の中から生まれてくるの」


「ほへぇー」


「まあ、人間みたいに下等な生物ではないけどね!」



 一々、口うるさいな。

 そういえばジェスの体が縮んでいるような気がする。

 先程よりもずっと小さい。オレの手の平二つ分(三〇センチ)ぐらいじゃなかろうか。



「静客の負担を減らすために決まっているだろう!

 精霊も多少は法力を持っているとはいえ、上位精霊は天帝に法力を奉納し続けているから、他の法力をアテにするしかないんだ」


「上位精霊ってのも楽じゃないんだな……どうした?」



 オレが頷いていると、ジェスが目の前で急に止まった。

 地面を見ているようでその視線の先には――――――暴れている大きな木があった。


 央納殿の辺りで見た巨樹よりは全然小さいが、それでも何か強風に煽られているように暴れているせいで、存在感は互角だ。



「あれって……木、だよな?」


「うん、木で間違いないよ。けれど、ここは天界。

 生えている植物が下界で生きているような植物と同じようだと思わないほうがいい」



 そんなの見たらわかる。

 少なくとも、オレの人生の中であんなに動き回る気を見たのは初めてだ。



「あれはね、幻想獣の一種、神樹キラエラ。

 光の女神の眷属、キーラの名前が冠された、キーラ・シリーズを代表するすっごくすっごく厄介な木なんだよ」


「お、おいおい、待て待て。オレの脳味噌は一つしかないんだぞ、丁寧に説明してくれんくぁいと理解できない!」


「いや、普通に静客以外も大抵、脳は一つしか持っていないよ?

 ……って突っ込んでる暇はなくて、よーく分からないだろうけどこれ以上は、戦いながら説明する」



 お、ジェスは好戦的なようだ。

 会った時から、その空気は代わっていないようで何より、なにより。



「何を暢気な顔をしているんだ! ぼくが戦うために必要な法力を供給したり、法術で戦うのは静客も同じだぞ!」


「オレも戦うのか!?」


「当たり前だよ」



 目の前にいるのは未知なる、蠢く木。

 まるで動物のように枝を動かしていて、その姿は風に煽られている者ではないと分かる。


 ……本当に樹が意思を持って、生きているみたいだ。


 目の前に広がる光景を、静客はただ静かに受け取っていた。

 しかし、どこか、現実離れした――少なくとも人間として生きていたオレにとっては、全く未知なるその化け物にドキドキしていたのも事実だった。



「応!」


「まずは、ぼくが奴の注意をひきつけるから、静客は「破」の法言を唱えてみて!」


「と萎えるなんて……」



 どうするんだ?


 そう尋ねる前に、オレの脳裏に言葉が浮かび上がって来た。

 オレの故郷で使っていた文字ではない。

 けれど、自然と意味は入ってくる。



 これが法言なんだろう。

 自然とオレの口から言葉が出ていた。



 言い終わるのと同時に、ジェスがオレの側から離れて、ジェスがキラエラと呼んだ蠢く樹へと突っ込んでいった。


 危ない、と思ったが、一応、ジェスは天界の住人。

 来て数日も経っていないオレよりも色々知っているのは間違いないだろう。



「我は精霊、光の子。我が名ジェスターニの名のもとに集いし、賢人たちよ我に力を与えたまえ」



 ――これは、法言じゃないな。

 佳幻様が教えてくれた、召喚の呪文ではないだろうか。


 浮かび上がった芸術的とも呼べる不思議な紋章にウットリとしていると、青白く光輝き、一瞬で辺りを包み込んでいく。

 瞬きをすると、ジェスの周りには八人の人影があった。



「一は、ぼくに続いて、キラエラに突進。

 二、三はキラエラから出てくる幻想獣たちの相手をして、四以下は静客の守りに徹しろ!」


「御意」



 仰せのままに、なんて聞こえて気がするけど、ジェスの眷属か何かなのか。

 いや、それはないか。


 ジェスいわく、眷属たちには党の昔に逃げられたと言っていたし、――人影をしているけれど、こいつらはきっとジェスが呼んだ使い魔なのだろう。


 八人の中で一番若そうな見た目をしているのが一、らしい。


 ……なんというか、もっとましな名前をつけよう、という考えはジェスにはなかったのだろうか。



 ジェスと一はあっという間に、キラエラとの距離を詰めていく。

 十本は軽く超える枝が伸びてくる。



「ていっ!」



 ジェスは、強そうだ。

 命じられたとおりに、オレの護衛をするためかやってきた五人に囲まれながら、オレは法言の声を大きくしていく。


 別に、何か効果が代わるわけじゃないだろう。

 けれどこれは気持ちの問題だ。


 法言が唱え終わると、先程、ジェスが召喚をした時のように、あ足り一帯が光に包まれていく。


 しかし、視界は良好だ。



「相手は目を晦ますけれど、オレがミカタとして選んだ奴には何の被害もない、不思議な法術――白昼夢、か。なんか似合ってんな」



 ジェスからそれ以上の指示はなかったので、オレはここで一旦様子見だろう。

 少なくとも今のオレじゃ、ジェスの役には立たない。


 それどころか、足手まといになるのは目に見えている。


 ジェスが上位精霊で、もっと法力が自由に仕えて、眷属がいて、そしてオレがそれなりに神官として、法術が使えていれば、何か違うのかもしれないが、オレには神官としての経験は全く足りていない。


 というか、神官としてなら、これが初陣となる。

 まあ、ほとんどをジェスがやっているのだけど。



「うーん、オレだけここで何かをするってのもなんかなあ……」


「でしたら、ジェス様へ法力の供給を行ってはどうですか?」


「へ?」



 急に話しかけられた。

 びっくりする。


 そんなにバッとこちらを振り返られて話しかけられたら、どうしても怯んでしまうものだろう。


 賢者の二――凄く猫みたいな目元――に、言われた通りにしたいのだが、いかんせん仕方が分からない。



「法力の環に法力を注ぐのですよ。

 注ぐだけでなく、ジェスターニ様へ法力が注がれていくようなイメージで……


 そうですねえ、下界で言えば、水力小屋を通っていく川の水が法力だと思っていただければよろしいかと」



 ほへぇ……さすが、賢者と呼ばれるだけのことはあるのかもしれない。



 二の賢者に言われるがまま、法力を集中させていく。

 水車小屋に例えるとはなんとも賢人の経麒麟を見た、と言わざるを得ないだろう。


 ゴニョゴニョ……


 法言を唱え終わったようで、今度は紋章は浮かび上がらない。

 こてん、と首を傾げてみるが、二の賢者は少し笑っただけで、ジェスの方を見るばかり。


 折れには教えてくれないのかよ。


 そう思っていたが…・・・ 、



「静客! 急に変なことをするな! いったい何が起こったのかと、一瞬吃驚したぞ!」


二の賢者と同じ、ジェスの方向を見ていたら切れられた。

ジェス曰く、オレの法術が邪魔だったようだ。



「そんな怪訝な顔をしないでください、静客さま」



今度は六の賢者が話しかけてくる。

(二の賢者、三の賢者は、ジェスについているので、ここで会話に登場するのは不自然上記に登場する二の賢者は、四の賢者に変更する)


六の賢者は何とも言えない、哀愁ともいえるようなそんな雰囲気を纏っている。

灰色の髪と褐色の肌がかっこいい。


アイツを彷彿とさせるような見た目だな……



「六の賢者、どういうことだ? オレの法術は、何かジェスの役に立っているのか?」


「ええ、静客様は法力を送っただけでなく、法術を使われたようです。

 ジェスターニ様の動くスピードがいつもよりも俊敏なものへと変化しています」


「しゅん、びん…………?」



 いつものジェスを知っているわけではない。

なんなら、昨日会ったばかりなので全く知らないと言っても過言ではない。


だけど、ジェスが俊敏というイメージがあるのが分からなくてまたもや首を傾げてしまう。



「賢者たちに尋ねたいんだが、あのキラエラってのはどんな木なんだ?」


「ジェスターニ様が仰っていられた通り、光の女神の眷属の使者ともいわれる神獣にございます」



 その、光の女神の眷属の死者ってところがイマイチ分からないんだよなあ……

 下界――というか、オレがいた場所には、複数の光の女神がいたし、なんなら男神もいたので、どの神のことを指しているのか分からなくて、イメージが湧かないのだ。



「光の眷属の中でも、怪力のヴァルムントと呼ばれる眷属がいます。

 第三神区で祀られているとか、なんとかそういったうわさを聞きます」



 丁寧な口調だけれど、意外と適当だ。

 第七の賢者の言葉に耳を傾けていると、戦闘には色々変化があったようだ。



「まず、キラエラは危険な怪物というよりも、厄介な存在として知られているのであります、のじゃ!」



 第八の賢者は、他の賢者とは毛色が違って、すっごくすっごく幼女だった。

 村の少女に似ているな。



「厄介……? 危険なわけではなく?」


「もちろん、神獣に数えられているのだから、危険がないことではないのじゃが、他の神獣に比べれば比較的危険ではない、のじゃ!」


「木ですからね」


「まあ、木だもんな」



 第五の賢者とオレはなかなか気が合うようだ。



「まず、キラエラは、攻撃を受けた時のダメージの大きさによって、分裂することがある、のじゃ!」


「ぶんれつぅ?」



 攻撃を受けたから分裂する獣。

 そう言うところは本当に、下界とは全く違う場所なんだなとしみじみと思わされるな。


 オレが童話的な現実(ファンタジー)に胸を躍らせていると、途端にジェスが攻撃を仕向ける。

 そして―――――――


 暴れ続ける樹、キラエラが分裂した。

おやおや、分裂する木!?

静客はジェスに法術を教えてもらい、法術を使えるように! 法術は魔術程度に捉えてくださいー

当初の予定じゃすぐに勝つつもりだったのに、膨らんじゃいました……


次回は、契約のおかげです!

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