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聖天海武  作者: 弌樹カリュ
第一部 西海殿の武神官
3/26

3話 覚えのない約束

「このままじゃ死んじゃうってどういうことだ?

 オマエ、今までピンピンしてたじゃねえか」


「それを言われるとすっごくぐうの音も出ないんだけど、とにかくぼくが危機的状況に陥っていて、すっごくすっごくやばいってことだけは理解してくれる?」



 うん、オレだって頭でっかちってわけじゃないからな。

 ジャスの言葉に頷くと、ジャスはなにやら呪文のような言葉を唱えだした。



「我は天帝に跪く天界のしもべなり


 三天のガーフィールド、悦水、フェラウディの命に従い御身から賜わりし祝福なる霊体を賭して天中の官吏たる神官を支え、地上人と共にたゆまぬ歩みを進めんことを誓い、ここに銀天の叡知を統べ、西海の守護を担う精霊 ジェスターニと武神官 静客の主従契約を交わす」



 ほへぇ……と感嘆の声を漏らしていると、なにやらオレの右腕に嵌められていた大理石でできたような光沢を持っていた腕輪が光りだした。


 徐々に「何か変なもの」が吸われていくような感覚がして、オレは意識を失った。





「ほらー、もう朝だよー。

 すっごくすっごく偉いぼくを助けられて、感激のあまり意識を失ってしまったのはすっごくすっごくいいことだと思うけど、さすがにぼくのこと放置しすぎたと思うよ」


「ここはどこだ……? オレは誰だ……?」


「そういう典型的なお目覚めとか間に合っているから! きみは静客。

 暴れまわって封印されてたぼくを助けてくれた救世主的な存在の武神官だよ。

 記憶戻った?」



 戻ったも何も、別に失っていた訳じゃないからな。

 目が覚めると、ジェスの光がなくなっていた。


 その代わりに、オレの目の前には男の子がいた。



「きみと――って、主人のことをきみ呼ばわりするのは良くないか。

 静客と契約したことによって、ぼくは真の体を手に入れることに成功したんだ!


 ……と言っても、これで神官と契約したのは二回目になるから、再取得? って感じでなんか不思議な感じなんだけどね……」


「オマエ、さっきよりも性格丸くなったな。そして、意外といい子そうな見た目してるんだな」


「ぬぉおお! 何を言っているんだ、静客は!

 ぼくはすっごくすっごく偉い精霊だけど、一神官にも満たない……って静客は、まだ昇華してから時間も経っていないから神官未満か。


 まあ、そんなきみにも寛大な心で接しているつもりなんだけど!」


「その割にはオマエ、すっごくすっごく偉そうだよな。眷属いないくせに」



 痛いところを突かれたと言わんばかりに顔をしかめる少年ジェス。

 光の姿に見慣れていた……というか、少年の姿にもなれることを知らなかったので、未だにこの少年がジェスだとは思えない。


 ジェスの雰囲気は、ぼんぼんって感じだ。

 肌はきめ細かくて、人形みたいに白い。とても、オレがいた内竜山脈の一帯では見かけたことのない銀髪と碧眼が異様に似合っている。


 オレが倒れているから分からないが、背丈はオレの胸あたりだろう。

 どうやってかぶっているのか分からない帽子のかぶり方に変な才能を感じる。



「そーやってぼくのことを馬鹿にしているようだけど、きみ、横になっているし、下半身には全く力が入ってなさそうだし、すっごくすっごく威厳ないよ!」


「威厳がなくちゃ困るのか?」


「当たり前じゃないか! きみは、すっごくすっごく偉いぼくの主人なんだよ?

 主人がだらしないようじゃ、契約相手のぼくだってだらしないと見なされるだろう!」



 ……そう怒られてもなあ……


 何かが吸い取られるような感覚があって倒れて以降、下半身には全く力が入らないのだ。

 上半身には力が入って、しっかり身も起こせるのだが。



「主人? なんのことだ? もしかして、オマエが言っていた『ぼく、死んじゃう!』と何か関係があることなのか?」


「似てない物真似禁止!

 きみみたいなちゃんと成人している武神官がぼくみたいにすっごくすっごく偉くてすっごくすっごく可愛らしい子供の声を出すときもいから!」



 き、きもいだなんて、村の子供たちにも言われたことなかったのに……



「もー! 聞いたのはきみなのに、何で話題をすり替えちゃうかな。

 まあ、いいや。それで順を追って説明するとね、ぼくに眷属がいないって言うのは知ってるでしょ?」



 散々、馬鹿にしたからな。知っている。



「それで、眷属がいるのが上位精霊って言ったでしょう?

 でもさ、よく考えてみて。それだったら、誰でも彼でも上位精霊になることが出来ちゃわない?」


「おおっ! 確かにそうだな!」



 しかし、ジェスの物言い用じゃ、上位精霊はすっごくすっごく偉いのだそうだ。

 そう簡単に偉い精霊が沢山いるなんてことないだろう。



「それでね、上位精霊になるには、天帝と契約するんだ。

 と言ってもあくまで儀式上のもので、天帝に会うことはおろか、神の世界に行くこともないんだけどね」


「でも、オマエが上位精霊ってことは、オマエも天帝と契約してるってことだろう?」


「そう!

 すっごくすっごく偉い上位精霊であるぼくは、天帝と契約しているわけなんだけど……この天帝との契約にはものすっごくすっごく法力が必要になるんだ」



 ああ、大体話がつかめてきた。

 ものすっごくすっごく大量に必要な法力をどうやって確保するかというと、眷属を増やすのだろう。



「概ねその通り!

 だけど、眷属だけじゃ法力が足りなかったときや、真の体を手に入れたいときは、神官と契約しなければならないんだ」


「そして、オマエは眷属がいないから法力が足りなくて、オレに縋るしかなかったというわけか……

 でもよ、『ぼく、死んじゃうかも!』ってどういうことだ?」



 法力が足りないだけで死ぬなんて大事なこと、佳幻様は言っていなかったしな。



「言ったでしょ? 上位精霊になるのには、天帝と契約する必要があるって。

 契約には、法力の奉納が含まれてていて、これを破ると死ぬんだ。一生、よみがえることがなくなってしまう。そんなのぼくはすっごくすっごく嫌だ!」


「だからオレと無理やり契約した、ってわけか……」


「あっ…………別に、静客を傷つけようと思った訳じゃなくて……

 命が危ないから必死になって咄嗟にしてしまったことで……その…………ごめんなさい」



 別にオレは気にしていないのに、ジェスにとってはそうもいかないみたいだ。

 オレとしては、法力が法衣や法具、法術に関係している、ということ以外知らないので、実感がわかないので、特に問題はない気がするのだが。



「別に気にしてねえし、大丈夫だぞ! さっきまでの威勢はどこへ行ったのやら」


「こらっ!

 上位精霊であるぼくに向かって、そんな風に、にたにたとした表所を向けてくるとはなんたる不敬か!」


「でも、オレ、オマエの主人になったんだろ?」


「ぐ、ぐぬぬ……何も言い返せない自分が腹立たしい。やっぱり、生きるための手段とはいえ、契約なんてするんじゃなかった……」



 そんな悲しいことを言われると涙が出てくる。



「にたにたとした笑顔で言う事じゃないし! それに泣いたことありませんって雰囲気の顔してるくせに!」


「オレだって多少は情に厚いとこあんだぜ。

 で、ジェス。契約に関しては良いんだが、この動かない足、どうすればいいんだ?」


「え、えーっと……」



 ジェスが碧眼をきょろきょろと動かす。



「……分からない。ああ! そんな拳を振り上げないで!

 すっごくすっごく偉い上位精霊に手を出すなんて、ほんっと野蛮極まりない!」


「そんな偉そうに言ってもオレとの契約がなくなったら死んじゃうんだろ? いいのかあ~? 契約、破棄しちゃうぞ?」


「ふん! どうせ、契約破棄の方法なんて知らないくせに!」



 いやいや、それが舐めてもらっちゃ困るんですよね。



「何その黒い笑み……コワイ。すっごくすっごくコワイ」


「オレが誰に央納殿を案内してもらったのかジェスには言ってなかった?」


「あ…………聞いたよ、聞きましたよ!

 多分、一時的に法力が足りないんだと思う。昔読んだ文献に、下界上がりの神官は法力切れになりやすいって書いてあった気がするから」



 法力も使い過ぎたら弊害があるってことだな。



「それで、法力はどうやったら回復するんだ?」


「ぼくの法力に余裕があれば、ぼくから渡せるんだけど、残念なことにぼくは静客から魔力をもらわなきゃいけないほど魔力が足りていないからな……って、『法力の環』持ってるじゃん!」


「へ?」



 ジェスが指さすのは、さっきの主従契約の時に光っていた右腕に付けられている腕輪だ。

 いつ付けられたのか、と思ったけど、多分佳幻様からこの法衣を貰ったときだろう。


 あの時は、見たこともなかった神官の奇跡に視線が向かっていて、自分の腕に腕輪が付けられていたなんて気付かなかったのだ。



「法力の環は、法具の一種。神官なら誰でも持っているものなの。

 法力を込めることで、いわば水瓶みずがめみたいな役割を果たすんだ」



 なんと、このわっかにはオレの法力が溜まっているのだとか。

 ……どれどれ見てみるか。ん? 別に何かが溜まっているような気配はしねえけどな……?



「はあ……法力は目に見えないものなの。佳幻にそんなことも教わらなかったの?」



 教わったような気もするし、教わらなかったような気もする。

 オレにとっては、神官が当たり前の顔して働いている、この天界が内竜山脈での暮らしぶりと比べ物にならないぐらいに凄すぎて、全部が全部、新鮮に見えるんだ。


 ジェスみたいな精霊だって、到底、初めてであったしな。



「それは置いといて法力の環を見せて。

 ……うん、やっぱり法力が十分に溜まっているみたいだね。


 それじゃあ、法力の環に意識を集中させて、軽く目をつむって、下半身が自由に動くように想像してみて」



 ふむ……それぐらいなら、剣術バカと言われていたオレにも出来るな。



「ぼくの言葉に合わせて、十秒目を瞑ってね。

 ……一、二……」



 ぶわわんと音が鳴りそうな気がして目を開けそうになるが、ジェスの言葉を思い出してしっかり目を閉じる。

 何か変なものが体中を巡っていくのが分かる。


 この「何か変なもの」が法力なのだろう、間違いない。


 体中を駆け巡る法力を身を委ね、起き上がり、走ったり飛んだり、弓の爺から飛ばされてくる矢を躱すしたりできるように想像してみる。



「……九、十。もう目を開けて大丈夫だよ。法力の環から意識を離して、立ってみてよ」



 ジェスに言われるがまま立ち上がると、軽い感動がこみ上げてきた。



「オレってすげえな!」


「いや、そこは普通、立ち方を教えてくれたぼくを賞賛するところでしょ。

 まあでも、静客が喜んでいるみたいだし、良かったよ」



 やっぱり、少年の姿になったジェスはどこか丸くなったような気がする。

 これを言うとまたつんけんした元のジェスに戻ると思ったからオレは何も言わずにいた。



「静客が立ち上がれたことだし、目的地の西海殿まで行く?」


「ああ、そういえば、オマエも西海殿の精霊だったって言ってたしな」


「厳密には西海の精霊、だけどね」



 まあ、あんまり細かいことは気にするな!



「大雑把すぎる主人もどうかと思うけどね」


「それじゃあ、目的地へ行くか!」



 オレとジェスはこうして無事に契約を交わし、目的地である西海地方へと向かうことになった。

無事(?)に契約をかわすことができた二人。

静客はネタ気味ですが、ジェスは本当にすっごくすっごく偉い上位精霊なんですよ。


次回は、目的地へです。

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