おつかい
最近、自宅で薬草を育てるのが流行っているらしい。
何度採取しても数時間で生えてきてしまうため育てている感覚はないらしい。
おそらく……いや確実にクレア(不老不死モンスターハンター)の血を養分にした薬草だろう。
きっと誰かが森に生えているその薬草を見つけて全て採取していったのだろう。
山菜や魚に限らず、乱獲するとろくなことにならない。
「あっ、クーちゃん、おはよう!」
「おはようございます、クーちゃん」
「ああ、おはよう。というか、二人はいつまでここにいるつもりなんだ?」
クレア(不老不死モンスターハンター)とマリー(吸血鬼)は顔を見合わせるとニッコリ笑った。
「クーちゃんがミシェル様を超えるまでだよ」
「は? そんなのいつになるか分からないぞ?」
「それがいいのですよ。そのいつかをこの目で目撃できた時、すごく感動できるはずですから」
「残念ながら、私はそうは思わない」
「えー、そうなのかなー?」
「少しでも成長を実感できればいいのですがねー」
クレアとマリーがそんなことを話しているとミシェル様(ロリ魔女)が自室から出てきた。
「みんな、おはよう」
『おはようございます、ミシェル様』
「うむ、今日もみんな元気じゃな。というか、いい加減起きろラファエラ。いつまでも寝ていたらスライムになってしまうぞ」
「お姉ちゃーん、好きー」
ラファエラさんは寝言を言いつつ、ミシェル様の腕にがっちりしがみついている。
なんというか、赤ん坊より手のかかる人だな。
「まったく、困った妹じゃ。ラファエラ! 朝じゃぞ! 起ーきーろー!!」
ラファエラさんは一瞬目を開けたが、すぐ目を閉じてしまった。
夢と現実の区別がついていないのだろうか。
彼女の意識が今どこにあるのか、それは誰にも分からなかった。
「はぁ、仕方ない。起きるまで放置しておこう。さて、今日は何をしようかのー。あっ、そうじゃ。クーよ、そろそろ薬草がなくなりそうじゃから町まで行って買ってきておくれ」
「おつかいですか? 分かりました、朝ごはんを食べたらすぐ行きます」
「うむ。あー、分かっておるとは思うが金はわしが用意する。あとは、そうじゃな……。オオカミに気をつけろ、じゃな」
えーっと、モンスターのことか?
「分かりました。あっ、あの、私おつかいは初めてなのですが……」
私のその発言でその場の空気がガラッと変わった。
「ほう、初めてか」
「クーちゃんの初めて」
「クーちゃんにとって初めてのおつかい」
「な、なんだよ、みんな。目つきがいつもと違うぞ?」
「クーよ」
「は、はい!」
「事故や事件に巻き込まれないように気をつけるのじゃぞ」
「あっ、は、はい、分かりました」
「よろしい。では、そろそろ朝食の準備を始めようかのー」
ミシェル様はそう言うとラファエラさんを引きずりながら家から出ていった。
自分が食べる分は自分で捕獲する。
それがこの家のきまりだ。
「クーちゃん、クーちゃん」
「なんだ? クレア」
「今日の朝ごはん何にする?」
「それは食材が集まってから考える。無から何かを生み出すのは難しいからな」
「そっかー。じゃあ、一緒に頑張ろうね!」
「え? あー、まあ、そうだな」
クレアはどうして私と話している時、ずっと笑顔なのだろう。
昨夜、寝る前に変なものでも食べたのだろうか。
「クーちゃん、クーちゃん」
「なんだ? マリー」
「最近、町の方で自宅で薬草を育てるというのが流行っているそうなのでおつかいのついでに調査を依頼してもよろしいですか?」
「……まあ、時間があれば調べておくよ」
「ありがとうございます! クーちゃんはいい子ですねー。よしよし」
彼女はニコニコ笑いながら私の頭を撫でる。
お前の言うことを聞かないとあとで血を吸われるかもしれないからな……。
「二人とも早くしないと朝ごはんなしにするぞ」
「それは嫌だなー」
「ですねー」
「なら、さっさとついてこい。クレアは前衛、マリーは後衛だ」
『クーちゃんは?』
「サポート兼司令塔だ」
『了解!!』
そんな感じで私たちは三人同時に家から出ていった。




