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ボイド

 私の怒りを全てやつにぶつけてやる!

 よくも、よくもクレアを!!


「死ね! クズ妖精!!」


「黙れ! 化け物!! 妖精様にたてくな!」


「うるさい! 黙れええええええええええええ!!」


 私の中にいるモンスターたちよ、私に力を貸してくれ。

 私はどうなっても構わない。

 クレアのかたちちができるのなら、死んでもいい!

 だから! 私に力を貸してくれ! 頼む!!

 私がそう願うと、とあるモンスターが「ならば、私に自我を献上しなさい」と言った。

 私は一切躊躇(ちゅうちょ)せず、了承した。


「うっ! ああ……ああ! うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「な、なんだ!? いったい何が起こって……」


 こ、こいつまさか! モンスターに自我を食われているのか!?

 まずい! そんなことしたら、この森は……いや、この世界は今日、終末を迎えてしまう!!

 なんとしても食い止めなければ!!


「こ、こいつなら……こいつを……殺せる」


「やめろ! 化け物! 人に戻れなくなるぞ!」


「何を言っている? 私はキメラだぞ? 人間なんてとっくの昔にやめている……うっ! それでは、世界を虚無にしてしまいましょうか」


「誰だ! お前は! 名を名乗れ!」


 そいつは淡々と名を名乗る。


「私の名は『ボイド』。万物を虚無きょむにできる力を持つ何かです」


「ボイドだと!? そんなやつ聞いたことないぞ!」


「知らなくて当然です。私は先ほど誕生したのですから。では、さようなら」


「ま、待て! まだ話は終わって……」


 私が指を鳴らすと、妖精は存在ごと消えてしまいました。

 あっけないものですね、命というのは。

 この体の持ち主はかなり苦戦していたようですが、そこまで強くなかったですね。

 亜光速で動けるくせに頭が悪いせいで死に至った残念な妖精でしたね。

 さてと、それでは世界を虚無にしてしまいましょう。

 私が指を鳴らそうとすると、誰かが私の頬を叩いてきました。


「クーちゃん! しっかりして! 私は不老不死なんだよ! 忘れたの!?」


 この人間はたしか……クレア(不老不死モンスターハンター)とかいう変態でしたね。


「クーちゃん? あー、この体の持ち主ですね。ですが、この体はもう私のものです。そして、クーちゃんはもうこの世に存在しません。この体は今日からこのボイドのものです」


「嘘だ! 私は信じない! 早くクーちゃんを返して!」


 この人間はどうしてこの個体のことを好いているのでしょうか。

 私には理解できません。

 あー、そうか。この個体の正体を知らないから、この個体を人間だと思っているから好意を抱いているのですね。


「クーちゃん……いえ、試作品306号は元人間です。しかし、今は不完全なキメラです。化け物です。化け物を好きになっても何もいいことはありません。早く縁を切りなさい」


「……知ってたよ、出会った時から」


「ほう、ではなぜこの個体と仲良くしていたのですか?」


「ひとりぼっちだったからだよ」


「それは同情ですか?」


「違う。私は誰かに甘えたかった。いつもそばにいてほしいって思ってた。だから、クーちゃんに私の名前の最初の文字を与えたんだよ」


「なるほど。あなたにとってこの個体はその願望を叶えるための道具なのですね」


「道具だなんて思ったことないよ。ただ、そばにいてほしい。そばにいてくれるだけでいい。私、メンタルそんなに強くないから」


「分かりました。では、そろそろ時間ですので失礼します」


「え? それって、どういう……」


 私が最後まで言い終わる前にボイドはクーちゃんの奥底へと戻っていった。

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