へいへい
ミョルニルの使い方。
「いいか? この武器は良くも悪くも重い。常時重い。だから、持っているだけで体力を消耗する。つまり、長期戦は必然的に不利になる。だから、使う場所によって大きさを変える必要がある。そうしないと今回のように自然を破壊してしまうからな。あと、私のような小娘を相手にする時は大工が使いそうな小ぶりなものでいい。あー、それと頭、額、目、顳顬、鼻、歯、首、みぞおちとかに当てると結構ダメージ入るぞ。それから」
「も、もういい! そのへんにしておけ! クー! トールを殺人鬼にするつもりか!!」
「え? こんなのでですか?」
「こんなのじゃと? ただでさえ強いのに今より強くしてどうする!!」
「ただ強いだけでは生き残れません。どんな相手が来ても勝てるようにするには日々できることを増やしていかないと」
「そ、それはそうじゃが」
「ミシェル様、そんなことよりコキュートスをなんとかしてください。火山が凍ったせいでサクラゲの一種たちはここに逃げて来たのですから」
「ふむ、そういえばそうじゃったな。よし、アポロンあたりに連絡しておくかのー」
「よろしくお願いします」
「おい、とっとと続きをやれ。じゃないと今すぐこの森を」
「黙れ。魔王因子で作ったヨルムンガンドたちのエサにするぞ」
「……冗談だ。続けてくれ」
「よろしい。えーっと、次は」
同時刻。クーちゃんが作った孤児院の屋根の上。
「なあ、アリア」
「何ですか?」
「あいつは……師匠はいったい何者なんだ?」
「推定年齢、一億歳の化け物……だったとしたらどうします?」
「ふざけるな。真面目に答えろ」
「ナッツさんは本当にあの人のことが大好きなんですね」
「は? 好きじゃねえよ、あんなやつ。というか、お前も結構謎多いよな。エアだっけ? そんな種族聞いたことねえぞ」
「知らなくて当然です。ただの魔力の塊なんですから」
「はぁ……なんかお前と話してるとあいつと話してる気分になるな」
「まあ、あの人も私と似たようなものですからね」
「どういう意味だ?」
「いずれ分かる時が来ますよ。まあ、その時あなたがそれを目視できるかは分かりませんが」
「あー、ダメだ。やっぱお前と話してるとなんかモヤモヤする。お前、本当に私たちと同い年か?」
「ええ、おそらく」
「おそらくって、お前な……」
「あっ、そういえばトール戦はちゃんと見ていましたか?」
「……見てねえよ」
「え?」
「正確には見えなかった、だな。というか、師匠まだまだ余裕だったな、あれは。なんであんなに強いんだよ」
「もし、一秒経過する度に戦闘力が膨れ上がっているとしたらどうします?」
「そんなの勝ち目ねえよ」
「まあ、そうですね。けど、精神はまだまだお子様です。弱みを握れば楽に勝てますよ」
「自分で自分の心に鍵かけてるやつにそんなことしても対して効果ねえよ」
「そうですかねー? 自分の周囲にいる人たちが酷い目に遭っているかもしれないと伝えたらきっとすぐに助けに行きますよー」
「うーん、まあ、元奴隷の私たちをなんだかんだ言いながら育ててくれてるから意外といいやつなのかもしれねえな」
「意外と、ではなくいい人ですよ、彼女は。ですから、あまり迷惑をかけないようにしてくださいね」
「へいへい」




