第96話 底辺テイマーは王都へ向かう
「ダーリン、アテがあるって言ってたけど、どこに行くの?」
真っ白な美しい人の姿になったハットンは、俺の腕に身体を巻き付けながら、尋ねた。
整備された道の上を走る乗り合い馬車に揺られながら、俺は答える。
「王都だ」
「王都? 人間の国の? 何でそんなの所に? いくら人間が集まったって、あたしたち魔獣に敵うわけ無いわよ」
「普通の人間ならな。でも、あの勇者ならどうだ?」
あの農業の街で出会った勇者。
底辺テイマーの俺を簡単にボコボコにした後、怒り狂う二人の魔獣から逃げおおせたのだから、魔獣に対抗出来るかもしれない。その上、聖剣を持って戦ってくれれば、相当強いのだろう。
たとえ、勇者単体で魔獣に対応できないとしても、人類最強だ。
「おお、あなたたちも勇者に会いに行くのですか?」
俺たちの前に座っている女性剣士が声をかけてきた。
歳の頃は二十歳過ぎだろうが、長い黒髪を後ろにまとめられたキリリとした顔は剣士などしてなければ、すぐに嫁のもらい手がつくだろう。
そして、その鍛え上げられた剣のような体つきは鎧の上からも見て取れ、その姿からあふれ出す雰囲気は上級冒険者に会った時と同じ雰囲気だった。年相応の実力と考えていると痛い目を見るだろう。
「ええ、王都にいると聞いたのですが」
「わたしたちもそう聞いているのですが……ちなみにあなたたちは勇者とどういった関係で?」
そう俺に尋ねる女剣士の隣で、いびきを掻いて寝ていた中年男性が目を覚ました。
無精髭を生やし、服もだらしなく乱れており、女剣士と同じような長剣を抱えている。
男はひとつ伸びとあくびをすると、女剣士に声をかけた。
「サリュリ」
「分かっています。御者殿、馬車を止めてください。モンスターが来ます。あなたたちは馬車から出ないでください」
サリュリと呼ばれた女剣士は、指示を出すと、剣を片手に馬車から降りていった。
同行者である男は、女剣士を助けに向かうわけでもなく、水袋に入った酒を口に含むと、ごろりと横になる。
その様子を見て、俺はハットンに小声で確認を取る。
「ハットン……」
「ええ、彼女が言ったようにモンスターが来てるわね」
「あいつらの手のものか?」
「違うと思うけど……強いわね」
ハットンは外の様子を聞きながら、呟いた。
モンスター対人間では、基本的にモンスターが勝つ。そうであるからこそ、武器を使い、武術を学び、数をそろえる。
乗合馬車にも護衛が付いている。その上、上級冒険者なみの剣士が応援に出たから、安心していたのだが、ハットンが言うほどにモンスターは強いであれば、心配だ。
俺はハットンに尋ねた。
「危ないのか? 応援に出た方がいいか?」
「モンスターの応援に?」
「なに? どういう意味だ?」
「大丈夫だろう。あの程度なら。それよりも、待てる間に一杯どうです?」
俺達の話が聞こえたのか、中年男は俺に水袋を差し出してきた。
男は同行人の女騎士のことを信用しているのだろう。
まあ、ハットンがいるのだ、魔獣相手でなければ問題ないだろう。
「ああ、いただきます」
俺が一口含むと、吹き出しそうになった。




