第93話 底辺テイマーは眠りにつく
深い深い眠りの後、俺は身体を揺らされて目を覚ました。
目を開くと、そこには色白な美しい顔が目の前に迫っていた。
「おはよう、ダーリン」
「ああ、おはよう。ハットン」
俺は大きなあくびをひとつして身体を起こすと、頭がくらりとする。
ハットンは俺を優しく支えてくれた。
「大丈夫?」
「ああ、昨日、ランリーがしこたま血を抜いて行ったんだ。シェリルの処置に使うと言ってな」
「貧血? じゃあ、ちゃんと御飯を食べないとね。キッチンに食事が用意されているみたいよ」
そう言われてみれば、香ばしい焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。
その香りに俺の腹の虫が反応する。
シェリルのことも心配だが、ランリーも食事をしているだろう。その時にシェリルの様子を聞いてみよう。
俺は、ベッドから降りると、キッチンへと移動した。
「おはようございます」
大きなスープ鍋の前にいる若いドワーフの女性が明るくあいさつをしてきた。
てっきりランリーがいるものだと思った俺は、少し動揺する。
「あ、おはようございます。ところで、あなたは?」
「失礼しました。おバアさまから、お世話を申しつけられました。リーカンと申します。スープを用意しますのでお座りください」
「ありがとうございます。ところで、ランリーはどこに居るんだ?」
俺は席に着きながら、二人分しか用意されていないことに不安を感じた。
昨日のうちに処置が終わり、帰ってきているのならば、三人分用意されているだろう。それが帰ってきていないと言うことは、処置が長引いているのだろうか?
「おバアさま、部屋で眠っています。明け方に帰って来ましたので、お昼まで起きないと思います。なにかお急ぎのようですか?」
「いや、疲れているだろうから、起きてきてからで良い。それと、シェリルがどこに居るか知っているか?」
「中央病院ですが、今言っても眠っていると思います。おバアさまが起きてから、一緒に行かれるのをお勧めします。昨日、かなりの血を抜いたとお聞きしています。食事をして、午前中はゆっくりお休みさせるよう言われています」
「いや、俺は大丈夫だけど……」
そう言って、勢いよく立ち上がると、頭がくらりとして、テーブルに手をついてしまう。
リーカンの言っているように、血が足りなくなっているのだろうか。しかし、別に死ぬようなことはないだろう。それよりもシェリルのことが心配だ。
「ダーリン、暴食は丈夫だから、大丈夫よ。それよりも、ダーリンは自分が思っているよりも体力を失ってるから、もう少し休んだ方が良いわよ」
「いや……」
ハットンは無理矢理、俺を椅子に座らせると、口に温かなパンを押し込んできた。
香ばしい小麦粉の味が口に広がり、一気に腹が空いていることを自覚させられる。
確かに、せっかく用意してくれた料理をそのままにするのももったいない。俺は素直に食事をすることにした。しかし、食事が終わればシェリルの元に行こう。
しかし、食事を終えた俺は強烈な眠気が襲いかかってきた。
「なんでこんなに眠く……」
「すみません。おバアさまの指示で」
どうやら、食事に睡眠薬が混ぜられていたようで、俺はテーブルに倒れこむように眠りこんだ。




