第89話 底辺テイマーは魔獣協会の攻撃を受ける
「シェリル!」
俺は見た。
倒れたシェリルの胸に吸い込まれる巨大な牙を。それは、蛇の毒牙だった。
「暴食の死は決定事項じゃのう」
大蛇であるジャカツの牙がいつの間にか無くなっていた。
どのような手段を使ったのかはわからないが、その牙がシェリルの心臓を貫いたのだった。
俺は吸い込まれた牙を抜こうと手をシェリルの胸に当てたが、すでに胸深くに刺さっており、無理に取り外すことが出来なかった。しかし、胸を触ったことでわかったこともあった。
「生きている」
「しぶといコイツのことだ、そのままじゃ死なんじゃのう。じゃから、毒を入れておいてやった。いくら魔獣とは言え、一ヶ月ともたんじゃのう」
一ヶ月持たない。逆に言えば、一ヶ月の猶予があると言うことか。その間にどうにかすることが出来れば、シェリルは助かると言うことか。
ならば、とりあえずここは撤退の一手だ。
「ハットン、俺たちを連れて逃げてくれ!」
「わかったわ」
来たとき同様、ハットンは俺とワタリガ、そしてぐったりと気を失ったシェリルを連れて、魔獣城から逃げ出した。
「逃がすと思うか? 裏切り者どもめ」
ガルダも大きな翼を羽ばたかせて追いかけてきた。
空の王と言われるガルダは、風を切りさき、俺たちに迫ってきた。
「ハットン、もっとスピードを上げられないか?」
「無理よ。基本的に風に流されてるだけだから、ガルダみたいに飛んでいるわけじゃないのよ。水の中なら、ガルダなんて敵じゃないんだけど」
「そうは言っても海までは遠いだろう」
俺は地平線の向こうの海を見た。どう考えても、そこに行くまでに確実に追いつかれる。
と言うか、すでに追いついてきた。
すれ違いざまに、ぐったりとしているシェリルを狙ってきた。
ハットンは触手を上手く使い、避ける。しかし、二撃、三撃とくる攻撃にハットンが傷つく。
このままでは、いつか致命傷を負いかねない。左腕の大砲を使うか。しかし、高速で動くガルダに当てられる気がしない。
打つ手に悩んでいると、ワタリガが提案する。
「ハットフィールド、ワシを盾に使え」
「ワタリガ、あんた……自分を犠牲にして……」
「気にするな」
「まあ、気にしないけど」
ハットンはワタリガを守るべき対象から、守らせる対象に切り替えると、ワタリガをガルダにぶつける様に振り回す。
しかし、その姿を見て、ガルダは速度を上げた。
「そんなのろまな動きで、私がどうにか出来ると思っているのか?」
そう言いながら、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
しかし、その攻撃は明らかにワタリガを避けている。ガルダのスピードでぶつかっても、ワタリガの堅さには敵わないのだろう。
「諦めろ、ハットフィールド」
ガルダが言うように、このまま時間が経てば、ハットンが力尽きるだろう。
何か、打つ手はないのか? 使える物はないのか?
必死で周りを見ると、地上に光る物を見つけた。
「ハットン、落ちろ!」




