第88話 底辺テイマーの見通しは甘すぎた
「無駄よ、ダーリン。タマモとシェリルは相容れないのよ」
俺の右腕を味わうかのように消化しているハットンが、声をかけてきた。
麻酔がかかっているのか、骨まで消化されている感覚があるが痛みは全くない。
しかし、そんなことよりも、ハットンの言葉の方が気になった。
「どういうことだ? ハットン」
「この子はね。シェリルに生きていてもらうと、王になれないのよ」
「王? 何のだ?」
「地上の王にゃう」
タマモは相変わらず、リラックスした様子で後ろ足で耳の裏を掻きながら、答える。
地上の王? それは人も含めた全ての頂点と言うことか? しかし、そんなことを他の魔獣達が認めるというのだろうか? 魔獣協会の五人が多数決で物事を決めるといっていた。それならば、五人の力関係は同格では無いのか?
「どういうことだ、説明してくれ」
「私たち魔獣協会の五人はそれぞれ王なのよ。ガルダは空の王、ジャカツは地中の王、ワタリガは水辺の王、あたしは海の王、そしてタマモは地上の王なのよ」
ハットンの説明で、五人の役割がおぼろげながらわかった。ここにいる五人は、魔獣の王として地域で役割を分割しているのだろう。そうか、ハットンは海の王として、タコのハッちゃんに海のゆりかごの護衛を命じていたのか。
猫の魔獣であるタマモが地上の王ということはわかった、それとシェリルがどう関係するというのだろうか?
「それがシェリルとどう関係するんだ?」
「ダンジョンに封印される前のシェリルは地上の王だったんだ。しかし、王が封印されては、秩序が保たれない。だから、新しい地上の王としてタマモが任命されたんだよ。だから、タマモは決して、あなたの側には付かない。シェリルがいる以上な」
ガルダは俺の考えを打ち砕くように説明して見せた。
気持ちではない、絆でもない、自分の立場を脅かす者であるシェリルには肩入れしない。
そういえば、タマモはハットンのことを、姉さんと呼んでいた。新参者であるタマモが、古くから王であるハットンに対して敬意をもってそう呼んでいたのだろう。
そのことに気がつかなかったことが、今の状況を作ってしまった。
俺の読みが甘すぎた。
どうする? タマモが駄目ならば、ガルダかジャカツと呼ばれた蛇を説得するか。
いや、駄目だ。説得する材料がない。
完全に俺の準備不足だった。
「すまない、シェリル」
「何、謝ってるのよ。そもそも、ワタシはこいつらの話しなんて鼻から聞く気は無いわよ。ワタシを殺しに来るなら来なさいよ。ワタリガのように返り討ちにしてあげるわよ。なんなら、ここで決着を付ける?」
シェリルは、あっけらかんとガルダ達に宣戦布告する。
そうだ、魔獣の数で言えば、三対三で互角じゃないか。
簡単には手が出せないはずだ。
「ハットン、ワタリガ。俺たちに付いてきてくれるか?」
「しかたがないのう。儂はすでにあそこで死んでいた身だからな。それに娘の旦那側に付くのが義父として正しい姿だろうな」
ワタリガはそう言うと、俺を守るように一歩前に出た。
ちょっと待て、味方になってくれるのは良いが、いつから俺の義父になったんだよ。
まあ、その辺りは落ち着いてからじっくりと話しをさせてもらおう。
「ハットンも良いか?」
「そうね、いただくものもらって、バイバイってほど悪い女じゃないわよ。あたしは一途なんだから、ダーリンについて行くわよ。さあ、再生も終わったわよ」
ハットンがそう言うと、一度完全に溶けたはずの俺の右腕が元通りになっていた。いや、元通りではない。
「あたしとダーリンの細胞で作った右腕よ。簡単に言うとふたりの愛の結晶って奴ね。食い散らかすだけの暴食とは違うのよあたしは」
ちょっと待て、ハットンと俺の細胞って、魔獣と人の細胞ってことか? どうなってるんだ?
いや、まずは目の前のことを片付けよう。
「さあ、こちらの魔獣はそちらと同じ三人。何だったら新たな魔獣協会として、そちらとの対立関係をとってもいいが、そんなことをしても双方消耗するだけだろう。ここはお互いを尊重して、同盟をむすばないか?」
俺はこの場の落とし所を提案する。
魔獣同士戦えば甚大な被害が出る。それはハットンとシェリルが喧嘩をして、一夜で街を壊滅させたことでも骨身にしみていた。穏便にシェいるの身の安全の保証が勝ちとるためにハッタリで押し通す。
「残念ながら、魔獣協会の決定はシェリルの殺害だよ。マックス君」
ガルダが静かにそう言うと、シェリルが静かに崩れ落ちた。




