第84話 底辺テイマーはワタリガに魔獣協会のことを聞く
「ところで、話が途中になったのだが、シェリルの暴食を止めないことには、魔獣協会は抹殺命令を止めないぞ」
ワタリガはハットンと俺の話が一段落した所で、ハットンに遮られた形になった、シェリルのことを話題にあげた。その話はすでにハットンから聞いていた俺は、シェリルの今の状況を説明し、ハットンにも確認を取ると、驚いた表情を浮かべた。
「あの、誰に何を言われても、止まらなかったお前が、人並みの食欲に収まるとはな……」
正直、人並みとは言いがたいが、彼らが言うように世界を食い尽くすほどの食欲はないのは明白だ。
ダンジョンから勝手に出たのが殺害理由ならどうしようもないが、暴食が問題なら、いまのシェリルに対して抹殺命令が出ること自体おかしい。
「何だったら、魔獣協会に行く間、シェリルのことを監視してもらっても良い。あんたらが言うような心配がないことが分かってくれると思う」
「別に疑っているわけじゃない。以前のこいつなら、カサミはとっくに、コイツの腹の中だ。ただ、昔のこいつを知っている者としては……な」
ワタリガは、愛娘を引き寄せながら、ハットンに同意の言葉を贈る。
二人は暴食と呼ばれた頃のシェリルを知っている。よほどの変わりようなのだろう。
しかし、ワタリガには理解してもらえたようだった。
「分かってもらえれば、助かる」
「ああ、ワシは理解はしたが、他の連中が何というか」
「魔獣協会は多数決制なのだろう」
「なんじゃ、ハットン。そんなことまで話していたのか?」
「別に隠すようなことでもないでしょう。普通、あまり聞かれないだけで」
「まあ、そうだな……あんたの言うとおり、五人の多数決で物事を決める。だから、ワシとハットンの二人が、シェリルの抹殺命令撤回に賛成したとしても、残りの三人の内、最低でもあと一人が賛成しないとどうしようもないぞ」
ワタリガは、ハットンが俺に色々と情報を長居していることにあきれ顔になりながら、状況を説明してくれる。しかし、そのことは俺も十分理解していた。そして、最後の一人についても、めどが付いていた。
「なあ、タマモも魔獣協会の一人なんだろう」
「なんだ、あんたはタマモまで、仲間にしているのか? まさか、あいつまでここに……」
「タマモとは、裸で酒を酌み交わした仲だよ。その時にシェリルもいたから、状況は分かってくれているはずだ。これで三対二でこちらの言い分は通るだろう」
「……まあ、そうだな。それなら十分、勝機はあるな……しかし、シェリルはともかく、ハットフィールドとタマモまで手懐けるとは、何者だ?」
世界に魔獣と呼ばれる者の数は多くはない。その上、魔獣協会の幹部となれば五人しかいない。冒険者であっても、魔獣と会わずに一生を終える者もいる。幹部など、御伽噺の世界の者だろう。空を漂う、ハットンは比較的、目撃例があるとは言え、会話をした者などほとんどいないだろう。
改めて言われると、俺はかなりの幸運に恵まれたのではないだろうか?
「何者って言われても、俺はただの底辺テイマーなんだけどな」
「マックスはね。魔王なのよ」
俺の言葉をかき消すように、シェリルが俺の腕に抱きつきながら、言葉をかぶせてきた。
その言葉にワタリガは不思議そうな顔をする。
「魔王とな?」
「そうよ、魔獣であるワタシの王様だから、魔王なのよ」
「じゃあ、暴食はダーリンの臣下なのね。ダーリンが王様で、あたしが妃でいいわよね」
「は!? あんたなんて、ただの一兵卒よ!」
シェリルとハットンがにらみ合い、剣呑な空気になり、タコのハッちゃんが心配そうにウロウロとしていた。シェリルの強さを知っているから、ハットンが心配なのだろう。
まあ、二人は相変わらずじゃれているだけなんだが、ハッちゃんにはそれが分からないようだった。
そんなハッちゃんが可哀想になり、俺は二人を止めた。
「二人とも、止めろ。俺は王でも魔王でもなく、ただのテイマーなんだからな」
そんな様子を見て、なぜかワタリガは、ふんふんと納得していた。




