第83話 底辺テイマーとタコのハッちゃん
「まあ、協会に報告をしてくる。そのあとのことは協会員で話し合うことになるだろうな」
「パパ、またいなくなるの?」
カサミは心配そうにワタリガを見ていた。
魔獣協会がどこにあるのかは知らないが、決してここから近いところではないのだろう。そして、そこに行くのはいつもワタリガ一人なのだろう。次にワタリガがカサミに会えるのはいつになるのだろうか?
ん? ワタリガは協会へ行く?
「ワタリガさん、俺を協会に連れて行ってくれませんか?」
「あんたを? 何の為に?」
ワタリガは、ごくまっとうな疑問を投げかけてきた。
人間ごときが魔獣の中でも、上位の物が集まる魔獣協会に何の用事があるというのだろうか。
「シェリルの抹殺は協会が決めたことだろう。だったら、協会にその命令を取り下げてもらう」
「取り下げてもらうって、どうやって?」
「シェリルの抹殺命令と言うのは、シェリルが暴食が問題なんだろう」
「まあ、そうだ。しかし、何でその話を知っている?」
「それは私が教えたからよ」
全身濡れた真っ白な女性が、海から上がってきた。
薄い青いワンピースが海水に濡れて、身体のラインを浮かび上がらせていた。
まるで避暑地で一泳ぎしたお嬢様のようだった。
「ハットン、来てくれたのか」
「バカ厄災はワタシと一緒に来たのに、ワタリガ見つけて海で隠れてたのよ。卑怯者でしょう」
「災厄だと? じゃあ、お前はハットフィールドか? 何でこんな所に?」
ハットンの姿を見て、ワタリガが驚きの声を上げる。
その様子から、ハットンの人型を見たことがないのだろうか?
濡れた髪を軽く振って、水を振り払ったハットンはワタリガに話しかけた。
「そうよ。どうでも良いけど、その名前で呼ばないで。ちなみに、あたしは隠れてたわけじゃないのよ、ダーリン」
ハットンは俺の背中に張り付いているシェリルを引き離すようにしながら、シェリルを睨んだ。
しかし、シェリルの言葉からすると、二人は一緒にここに来たのだろう。そして、ずっと海の中にいたのだろう。しかし、何のために?
「それで、海の中で何をしてたんだ……あ! もしかして、ワタリガと戦っている間、海の中であのタコと戦っていたとか?」
「あのタコって、ハッちゃんのこと? おーい! ハッちゃん、おいで」
ハットンが、穏やかな波打つ海に向かって声をかけると、海面が持ち上がり、あの巨大なタコが現れた。どこか、怯えるようにハットンに呼ばれるままに、陸へと上がってきた。
「どういうことだ?」
「どういうことって、タコのハッちゃんよ。あたしが、この辺の守りをお願いしてたクラーケンよ。この辺りって稚魚の繁殖場になってるのだけど、その分、外敵が多いのよ。だから、ハッちゃんに海の子ども達を守ってもらってたのよ」
「しかし、漁師達を襲ったって聞いたぞ」
「当たり前じゃない。漁師なんて外敵の筆頭じゃない。船なんかが近づいたら真っ先に沈めに行くわよ。ここは海のゆりかごなんだから」
もしかすると、俺は勘違いをしていたのだろうか。
このタコは人に害する敵だと思っていたが、稚魚などからすれば守り神、いや母親なのかも知れない。
ハッちゃんを殺して、この島周りを漁場にすれば、多くの魚が捕れるのかも知れない。しかし、一時的に豊漁になったとしても、稚魚が大量にいなくなれば、そのうち不漁つづきになるのではいだろうか?
そういえば、ハッちゃんが海に逃げ込もうとしたとき、海から触手が伸びたのが見えたが、アレはハットンの触手だったのだろう。
「ハッちゃん。勘違いとはいえ、傷つけてしまって、すまない」
俺はタコに頭を下げた。




