第82話 底辺テイマーとワタリガとの戦いの終わり
その世界は真っ白だった。
目に映るものは巨大な蟹の魔獣ワタリガ。燃えるような真っ赤な甲羅にオークよりも大きなハサミ。
ワタリガに対峙するシェリルの背中が見える。人の姿の背中は小さく見えるのは、もう力が残って否からだろうか。
ワタリガはそのハサミでシェリルの胴を掴んだ。
助けなければ!
俺は左腕の大砲を構える。ワタリガとてこの大砲を盾無しで受ければ、ただでは済まないはずだ。
発射!
爆音とともに左腕は吹き飛び、体中に激痛が走り、地面に倒れ込んだ。
キャー!
悲鳴の先に、ワタリガのハサミでシェリル身体は潰されて、悲鳴とともに血を吐いていた。
シェリル!!
俺は這うように、シェリルに近寄る。
急に暗くなり、上を見るとワタリガのハサミが振り下ろされていた。
シェリル。一緒にいこう。
~*~*~
「マックス!」
俺が跳ねるように起き上がると、そこには銀髪の美しい女性がいた。
「シェリル」
「なに?」
「シェリル」
「え!?」
俺は体中の痛みを忘れて、思わずシェリルに抱きついた。暖かい、柔らかい。抱きしめると、優しく抱きしめ返してくれる。生きている。シェリルが生きていた。自分が泣いているのが分かる。シェリルが生きていてくれて、嬉しくて、ほっとして、涙が止まらない。
「大丈夫か?」
抱き合う俺たちに声をかけてきたのは、真っ赤な鎧を着けた壮年の男性だった。堅苦しさが顔に出ているような男が心配そうな顔をしていた。
「あなたは?」
「ああ、この姿で会うのは初めてか。ワシはワタリガだ」
「ワタリガ……ああ!」
俺は反射的にシェリルを後ろにかばうと、左腕を構えた。
左腕はちゃんと付いていた。しかし、その腕をシェリルがそっと押さえた。
「待って、ワタリガは、もう戦う気は無いみたいなのよ」
「どういうことだ?」
「それは……」
「それはワシから話をさせてくれ。まずは、お礼を言わせてくれ。最後の一撃を外してくれてありがとう。おかげでカサミは無事だった」
そう言って、ワタリガは深々と俺に頭を下げた。
そして、その後ろに隠れている子蟹がお礼を言った。
「お兄ちゃん、パパを助けてくれてありがとう」
ん、カサミ? どこかで聞いたことがあるような?
子蟹、パパ、カサミ。
あ! 魔柿猿にいじめられていた子蟹か。え! そうすると……
「カサミのパパって、ワタリガのことか?」
「そういうことなのよ。この堅物が子供を作ってるなんて、思ってもみなかったのよ」
俺の背中から抱きついたまま、驚いたように教えてくれた。
シェリルは、ワタリガが蟹の魔獣と言うことは知っていたのだろうが、シェリルがダンジョンで封印される前には子供もいなかったため、カサミがワタリガとつながらなかったのだろう。
しかし、あの時、カサミを食べようとしたシェリルを止めて、良かったとほっとする。
「俺たちが、カサミを助けていたから、戦うのを止めたのか?」
「それもあるが、あの時、カサミが間に入らなければ、ワシといえども無傷では済まなかっただろう。そしてその隙をこやつが見逃すはずが無い。つまり、ワシは負けたんだよ」
確かに、あのタイミングでは、最後の一撃が入っていたはずだ。
それをワタリガは、素直に認めてくれたのか。
とりあえず、戦いは終わった。しかし、それで全てが終わったわけでは無い。ワタリガは私怨で動いている訳では無く。あくまで、魔獣協会の決定に基づいて動いていたはずだ。これから、どうするつもりなのだろうか?
「それで、戦いを止めて、これからどうするんだ?」




