第81話 底辺テイマーは気を失う
シェリルがワタリガの巨大なハサミにとりついたのだ。
蟹のハサミは挟む力は強いが、開く力はそれほどでもない。上からハサミを押さえつけるように取りついたシェリルに対して、ワタリガは背中方向の地面にたたきつけるしかないのだが、そうするとワタリガはひっくり返ってしまうだろう。たたきつける瞬間に逃げられてしまえば、無防備な腹をさらしてしまう。
対して、シェリルにはもう体力が残っていないようだった。ワタリガの爪にとりつき、攻撃を防ぐことが精いっぱいのようだった。それも仕方ないことだ。幾度となくワタリガの爪で身を切り、水大砲のダメージも抜け切れていない上に、盾により打撃を受けた足も赤くなっている。
どちらも動けない膠着状態。
つまり、ここで勝敗を分けるのは俺と言う存在だ。
左腕の大砲の弾数を確認する。
何とかあと一発は撃てるだろう。
それを撃った後、俺の体がどうなるかはわからない。しかし、ここで撃たないと、俺もシェリルもここで死んでしまう。
俺は、確実に当たる距離まで、這って移動する。
「マックス、何をする気!? そんな身体で、アレを撃つなんてダメ!」
「大丈夫だ、シェリル。俺を信じろ。俺が死んでも、お前だけは守る」
俺は、上半身だけ起こし、左腕をワタリガの胸ど真ん中に構える。奴の甲羅が硬くても、あの盾よりは柔らかいだろう。
「このワシが、人間ごときにやられるというのか」
先ほど、俺の左腕の威力を体験したワタリガは、この一撃がどういう物かよく理解しているようだった。
俺はすでに感覚の無い左腕を右手で支えると言った。
「悪いな。これは俺の力じゃないんだ。ドワーフの力だ」
「あの他種族嫌いのドワーフか。その力を借りられたのは、紛れもなくお主の力だ。この一撃を誇っていいぞ。そして魔獣クラブジラの長ワタリガを倒したことを」
ワタリガは諦めたようにそう言った。
俺は大きく息を吸い込むと、この戦いの決着をつけるべく、左腕の大砲を放とうとしたまさにその瞬間だった。
俺とワタリガの間に美しいピンク色の子蟹が現れた。
「パパを殺さないで!」
すでに大砲は放たれる直前で、止めることは不可能だった。
このままでは、子蟹ごと打ち抜いてしまう。
駄目だ。
俺は左腕を思いっきり上に向けると、仰向けのまま空高く大砲は放たれ、その反動で俺は地面に押し付けられた。
渾身の一撃だった。
もう、指一本動かせない。
青い空を見ながら、俺は気を失ったのだった。




