第80話 底辺テイマーは魔獣ワタリガに傷をつける
俺は痛みも忘れて立ち上がった。いや、不思議と痛みを感じなかった。
目の前の巨大な蟹に向かって走る。
ダメージなど与えなくても良い。ただ、シェリルが逃げられるだけのほんの少しの隙ができれば良い。
「うぉーーーー!!!!」
俺は叫びながらワタリガへ向かう。
ワタリガは振り上げた爪を素早く納めて、盾を構えて俺に備えた。
勢い余って、俺はその盾にぶつかる。ゴンと音を立てて、跳ね飛ばされた。
もっと強い衝撃が来ることを予想していたのか、ワタリガは不思議そうな顔をして俺を見た。
つまり、盾から顔を出したのだ。
俺は左腕を構えた。いつの間にか、曲がっていた腕が戻っていた。
撃てる。
「発射!」
大砲を発射する。今度は腰を落として、両足を踏ん張って飛ばされないようして、右手で左腕を掴んで支えながら。
タコの触手を吹き飛ばした俺の最大火力。
倒せないまでも、ダメージは与えられるはずだ。与えられるはずだった。
「人間にしては、なかなか良い技を持っているな」
一直線の傷がついた盾の陰からワタリガが、話しかけてきた。
打ち抜けなかった。
盾の傷から見るに、俺の一撃をその盾で逸らしたのだろう。冒険者パーティのリーダー、トリスが教えてくれたパリィと言う技だ。その技自体、相手の攻撃を読み切って、その力を受けるのではなく、受け流す、かなり難しい技だと聞いたことがある。巨大な身体で力技だけで無く、こんな器用なこともできるのか。
感心した瞬間、俺の身体は吹き飛んだ。
ワタリガの爪の一振りは、簡単に俺を吹き飛ばしたのだった。
「マックス!!!」
シェリルの叫び声が、島に響き渡った。
止めを刺そうと、その鋭利なハサミの先を俺に向けたワタリガに、シェリルは襲い掛かった。
ゴン、と言う爆音とともに、シェリルの一撃はワタリガの盾を割った。それはちょうど、俺がつけた傷に沿って綺麗に二つに割れたのだった。
「ぐぬ!」
その盾に絶対の自信を持っていたのだろう。ワタリガは悲鳴にも似た驚きの声を上げる。
「やるな。しかし、盾がなくとも、このハサミがある限り、ワシは負けん!」
「だったら、そのハサミも喰いちぎるだけよ」
二匹の魔獣は最後の気力を振り絞って、激突する。
突き、払い、挟むなどの多彩な攻撃を放つワタリガ。体当たり、爪による引き裂き、牙によるかみ砕きで対応するシェリル。
長い戦いの末、二人の戦いは膠着状態に陥った。




