第79話 底辺テイマーは失敗する
俺の言葉にシェリルは、大きく後ろに飛んで、ワタリガと対峙する。
先ほどのワタリガの突進を見て、分かっていた。
スピードはシェリルの方が圧倒的に速い。
重防備騎士は本来、チームの前線に立ち、敵の攻撃を受ける役割を持つ。そしてその防御でできた隙を他の戦士や魔法使いが攻撃をする。敵に回せばやっかいで、仲間にすれば心強い。しかし、その装備のため、動きが遅く、そこは他の軽戦士達が補う。
しかし、ワタリガは一人だ。
ならば打つ手はひとつ。
「シェリル、逃げろ! お前のスピードなら逃げ切れるだろう」
「でも、マックス……」
「俺のことは大丈夫だ。奴の狙いはお前だろう。あとで合流する」
シェリルが躊躇していると、ワタリガが動いた。
左手の盾を構えたまま、右手のハサミをシェリルに向けた。
「死ね!!!」
タコと比べものにならないほどの威力の水鉄砲、いや水大砲が放たれた。
「危ない!」
俺は思わず叫んだ。
水大砲はまっすぐにシェリルに向かった。
それをシェリルは横っ飛び、ギリギリで躱した。水大砲は海で待機していた船を破壊して、遠い港町まで届いた。どのくらいの被害が出たのかここからは分からないが、あの距離を飛ぶ程の威力。シェリルに直撃したらと思うとぞっとする。
しかし、躱したと言うことはシェリルは、ワタリガの水大砲を知っていたのだろうか。だからワタリガに背を向けて逃げることに躊躇したのだろう。
俺のアドバイスが、シェリルを殺すことになったかもしれないと思うとぞっとする。
「大丈夫か! シェリル」
「だ、大丈夫」
しかし、その言葉とは裏腹に、シェリルはふらついていた。直撃は避けたが、かすってしまったのだろう。それまで、スピードで翻弄しながらも、徐々にダメージを受けていたシェリルが、そのスピードを失ってしまった。
そんなシェリルを見逃さず、ワタリガが間合いを詰める。
先ほどの水大砲では無く、確実に仕留めるつもりだ。
盾を構えて、その重量を使って身体ごとぶつかって行く。
「避けろ!」
俺の言葉に反応したのか、なんとかジャンプした。
「ぎゃっ!」
盾がシェリルの後ろ足に当たり、砂浜にうずくまった。
まずい。流石のシェリルも次の攻撃は避けられないことは明らかだ。
それでも、ワタリガは慎重に盾を構える。
勝ちを確信したときほど、一番危険だと言うことが分かっているかのように。
盾を構えたまま、シェリルの様子をじっと観察している。
そして、その姿が演技でないとみると、注意深くその爪を振り上げた。




