第78話 底辺テイマーはワタリガの戦い方を見る
そこにはまるでゆでた蟹のような真っ赤な鎧を全身に身につけ、亀の甲羅のような盾を持った大男が立っていた。
いつの間にそこにいたのだろうか? シェリルのすぐ側にその男はいた。俺たちと同じ船に乗っていなかった。こんな派手な鎧を身につけていたら、印象に残っているはずだ。
この島の住人だろうか? そうであれば、なぜ、シェリルの名前を知っているのだろうか?
俺が男の正体を想像していると、シェリルが男の名前を叫んだ。
「ワタリガ! なんで、あんたがこんな所に」
「お前を探していたに決まっているだろう。草原の街を破壊したお前が、山に向かったと言うので、追いかけてここまでたどり着いたんだ」
「なんで、山に向かって海に来てるのよ。それもこんな無人島に……ああ、そういえばあんたって昔から方向音痴だったわよね」
シェリルは、この男のことを知っているように話しかけていた。
俺はワタリガの名前に聞き覚えがあった。ハットンもタマモも言っていた魔獣協会からの刺客の名前だ。
最悪のタイミング。
巨大なタコは、シェリルがワタリガに気を取られていると分かると、ずるずると海に向かって逃げ始める。
「シェリル! タコが逃げる!」
俺の声にシェリルは、タコにとどめを刺そうと向き直る。
しかしそれを妨害するようにワタリガが、シェリルに襲いかかる。
「やっと見つけたのだ。逃がさんぞ」
ワタリガは巨大な蟹の姿に戻り、その巨大な爪を振り下ろす。
シェリルは横っ飛びでその爪を避けると、砂が黙々と巻き上がった。
その砂煙の中で俺は見た。
海の中から半透明の触手が伸び、全ての触手を失ったタコを捕まえると海に引きずり込んだ。
「さあ、大人しく死ね!」
巨大な蟹の姿になったワタリガは、左手に巨大な亀の甲羅のような盾を構えてシェリルに向かって走り始めた。
このままでは盾で体当たりする、シールドアタックを食らってしまう。
シェリルはしなやかにジャンプをすると、空中でくるりと一回転をして、そのままワタリガニ襲いかかる。
シェリルの必殺の牙。
しかし、ワタリガの盾がその牙を防ぐ。
全てをかみ砕くシェリルの牙。
それをワタリガが防ぎ、その隙に爪を繰り出す。
攻撃直後ではシェリルも避けきらず、左肩を切られる。致命傷では無い。
シェリルは二本足で立ち上がると爪を繰り出す。
その爪もことごとく盾に防がれ、爪によりチクチクとダメージを重ねる。
攻撃力は強くない。あの盾が強力なのだ。シェリルの攻撃を全て防ぎ、その隙に攻撃を繰り出す。それだけを淡々と繰り返す。
派手さも無く、何ら難しいこともしていない。重防備騎士が行う戦闘法である。
ワタリガが重防備騎士であるのならば、やり方はある。
俺は身体のあちらこちらから血を流しているシェリルに叫んだ。
「シェリル! 距離を取れ!」




