第76話 底辺テイマーは絶体絶命に陥る
何かに攻撃を受けたわけでは無い。
先ほどの一撃に自分自身の身体が耐えられなかったようだ。
左腕が折れ、おかしな方向を向いている。
体中も打ち身、擦り傷、そして骨もいくつか折れているかもしれない。
俺は痛みの耐えるようにうずくまった。
そもそもテイマーは戦士達とは違ってそれほど身体を鍛えない。どちらかというと魔法使いに近い職業だ。魔力でモンスターと契約し、モンスターが自分の代わりに戦う。
そんな俺が魔獣すら倒せる一撃を放てば、こんな状態になることは想像できたはずだ。
試し打ちでもしていれば、この状態を避けるための方法も取れたかもしれない。
自分のうかつさが招いた失敗だ。
俺は痛みに耐えながら、自分のうかつさを呪った。
ずりずりと砂を移動する者の気配を感じる。
動けなくなった俺にとどめを刺そうと、タコが近づいてきているのだろう。
向こうから近づいてきてくれるのならば、倒れたままで一撃を食らわせてやる。
俺はその瞬間が来るのを地面に伏せたまま、片目でタコの動きを見ていた。
もう少し、近づけ。勝利を確信したその時が、お前の最後になるんだ。
しかし、タコはある程度近づいて止まってしまった。
先ほどの一撃で、警戒をしているのだろう。動けない俺に向かって、高圧の水鉄砲を発射する。
終わった。
俺にそれを避けるすべなど無い。
死ぬ直前は、時間がゆっくりと流れ、大事な人を思い出すという。
それは本当だろう。
なぜなら、いるはずの無い美しい銀色の毛並みを身にまとった狼が俺の目の前に立っていたのだ。
その雄大な狼はタコの放った高圧水を軽く首を振っただけで、大きく反らしたのだった。
そして、目の前のタコなど全く意に介すこと無く、ゆっくりと俺の方を向いた。
「もう、マックス。勝手にいなくならないでよ。探したんだからね」
それはいつも聞いているあの愛しいシェリルの声だった。
「シェリル、何でここに?」
「何でって、言われても。マックスが酔い潰れたから、先に部屋で休むって言われていたのに、部屋に行ってもいないし、マックスに匂いは港までしかなかったから、あっちこっち探したんだからね。そうしたら、変な光が見えたら妙な胸騒ぎがして、飛んできたのよ」
「そうか、助かった。ありがとう」
俺が放った一撃が本来の役割を果たさなくても、救命信号の役割を果たしたってことか。
シェリルの顔を見たからか、俺の身体の痛みが和らいだ気がする。
俺がゆっくりと立ち上がろうとすると、それを見たシェリルが、身体をなめ回した。
「どうしたの。ボロボロじゃ無い。やったのはアイツね」
実際には自分の攻撃で、自分が傷ついている情けない状況だが、タコと戦った結果なのだから、タコのせいだとも言える。
「アイツが、領主が言っていたモンスターだ。やってくれるか?」
「任せて。食べちゃって良いのよね」
「ああ、頼む」
俺の言葉を開始の合図に、シェリルは海へと逃げようとするタコに向かって走り始めた。




