第75話 底辺テイマーは大砲を撃つ
タコは真っ黒い墨を吐き出し、自分自身ごと全ての冒険者を闇に包んだ。
それを俺は離れた岩の陰から見ていると、真っ黒なドームの中から数多い悲鳴が聞こえてきた。
今、闇のドームの中に入れば、足手まといにしかならないだろう。俺はじっと、墨が晴れるのを待った。
どのくらい時間が経っただろうか、そこには大してダメージを受けていないタコと、死屍累々と倒れている冒険者達がいた。
「テイマー……あとは……頼んだ」
息絶え絶えの戦士が、俺にそう言うと力尽きた。
ミーティングの時には最低でも半分、上手くいけば3分の2は倒した後、俺がテイムする予定だった。
それなのにこの場で無傷なのは、俺とタコだけになった。
俺は逃げようと考えたが、船はタコが海に逃げないように少し沖で待機しているため、簡単に逃げることはできないだろう。
『本気を出せば、お前だってワンパンだぞ』
ふと、ランリーの声が頭に響いた。
そうだ、俺にはこの武器があるじゃ無いか。魔獣さえ倒せる可能性があるなら、でかいだけのこのモンスターなど敵ではないのではないか。
俺は、左腕の弾数を確認する。
二発から三発か。
ここで使わなければ、どこで使うんだ。
タコはまだ、立ち上がろうとする冒険者にとどめを刺そうとして、俺に背を向けている。
俺は覚悟を決めて、岩場から飛び出した。
勝負は初めの一撃。
俺はなるべく音を立てないように、それでいて早足でタコに近づく。
タコは巨大だ。岩場の陰からでも当てることはできるだろう。しかし、距離があればあるほど、威力は下がるだろう。
これ以上近づくと気づかれてしまうギリギリの距離で、俺は左腕を構えた。
セーフティ解除。
左腕の義手の手首が上に折れる。
充填確認。
そこでタコがこちらに気がついた。
ぬるりとした動きでこちらを見た。巨大な両眼は確実にこちらを捕らえ、俺が何をしようとしているかを把握したようだった。
周りに仲間はいない。
船をその触手で巻き込み、壊せるほどの巨大なタコとたった一人で対峙することになった俺の心に真っ先に浮かんだのは恐怖。
この一撃を外せば俺もそのあたりに倒れている冒険者の仲間入りを果たすだろう。
しかしこの距離で、この的に外すとは思えない。
発射。
強烈な光が俺の左腕から発射された。
その勢いに俺の左腕は跳ね上がり、そのまま背中を地面に打ち付け、後ろ回りで転がり、岩にぶつかって止まった。
「いてえ……どうだ!?」
俺は岩にぶつけた頭をさすりながら、タコの方を確認した。
俺の放った一撃は、砂を巻き上げていた。
その砂の向こうにタコは存在していた。
しかし、その太い触手たちは半数以上ちぎれ飛んでいる。
どうやら、俺自身、大砲の威力に負けて斜め上方向に発射してしまった上、タコは八本ある腕の半数以上を防御に回して空へとその弾を反らしたのだろう。
ならば、もう一撃。
これで終わりだ。
俺が次弾を装填して、構えようとしたとき、全身に激痛が走った。




