第69話 底辺テイマーは新武器を使う
船工場は、街と比べ物にならないほど殺気立っていた。
「てめぇら! チェックを怠るな! 明後日には進水式だぞ」
せわしなく行き来する男どもに、頭領らしき人間が叫んでいた。
建物の中で造っているため、その姿は見る事は出来なかったが、どうやら沈まない船は無事に完成したようだった。
明後日の進水式が無事に終われば、領主に対する義理も果たせる。それに明後日なら明日、領主と話をしても十分、間に合うだろう。それに領主邸に行ったときに、宿の場所も連絡している。明日には領主の使いが来るかもしれない。
とりあえず俺は、状況がわかり、ほっとする。
「よし、今日は宿でゆっくりしよう」
「やった!」
俺の言葉にシェリルが喜びの声を上げた。
~*~*~
シェリルとハットンが寝静まった後、俺はふと、目を覚ました。
結局、領主からの使いは来なかった。まあ、明日一日のうちに会えれば良いだけだから、それほど焦る必要も無いだろう。そもそも、進水式自体に俺がいる必要も無いのかもしれない。
俺は水を貰うために薄焼きの水差しを持って、ロビーの側にある水瓶から水を汲むと、部屋に戻ろうとする。
その帰り道の暗い廊下に、音もなく男が二人現れた。
明らかに泊まり客ではない。
顔を隠した黒装束の男達の手には黒塗りされた短剣が、こちらを向いていた。
殺気は感じない。
武器を手にしてこちらに迫ってきているにもかかわらず、殺気を感じないと言うことは、それを意図的に隠しているプロの暗殺者なのだろう。
俺が目的なのか、目撃者を消そうとしているのか分からないが、命の危険には変わりない。
俺は迷わず、水差しを投げつけた。
水差しは誰にも当たることなく、床に落ちると音を立てて割れた。
地を這うように向かってくる男に左腕を繰り出すと、男は易々と俺の左手首を掴み引き寄せようとする。
狙い通り。
俺も相手の手首を左手で掴むと、男は声も上げずに床に転がった。
『激痛衝』
ランリーに貰った新たな武器。
相手はプロ、死にはしないと言うことで最大限で使ってみた。死んではいないだろうが、泡を吹いてケイレンを起こしているのを見て、どれほどの痛みをこの男が受けたのか心配になった。
もう一人の男は、俺が何をしたのか分からず、様子を見ていた。
「こいつを連れて、二度と来なければ見逃す。そうでなければ、同じ目に遭わせるぞ」
「何の音?」
俺はなるべく冷静を装った声で言った時、部屋からシェリルが出てきた。
水差しが割れた音に気が付いたのだろう。
男は倒れた仲間を担ぐと、闇の中へ溶けていった。




