第62話 底辺テイマーは遠信を手に入れる
それから、食料品が揃うまで、俺達は特に何ごともなく穏やかに過ごした。行く先々で、魔王様(笑)を言われる以外は。
「ハイ、これでご注文の品は全部です。確認してください。魔王様」
痩せた八百屋の親父が、ひげに隠れた口をにやりと口角を上げながら俺に言った。
俺は木箱に入れられた根菜類や葉ものを確認して答えた。
「ありがとうございます。確かに確認しました」
「魔王様は、もう、街を出て行くのか?」
「ええ、必要な物は揃ったので、別の街に行きます」
「そうか、また帰ってくるかい?」
温泉も近いし、食料も豊富で、メシも美味い。何よりも街の人がやさしい。
俺は笑いながら言った。
「そのうちね」
~*~*~
「おい! こう言うことは事前に連絡しろ!」
「すみません」
俺はランリーの前で正座をして下を向いていた。
いろいろとあって、すっかりと忘れていた。
ハットンが初めてドワーフの街にやってきたことに。
人間の姿をしていたハットンは当然、転送ゲートの出口で止められた。
慌てて、俺が事情を話し、ランリーを呼びだしてもらい、ハットンの本来の姿を見せて納得してもらった。
「一応、魔獣に暴れちゃ困るし、何かあればあの馬鹿に対処させるからと、強引に許可させたが、二度とやってくれるなよ。ウチの連中の中には、魔獣相手でも平気で、新兵器を試そうって馬鹿が多いんだからな」
「すみませんでした。以後気をつけます」
この街とドワーフの特殊性はシェリルからも聞いていたし、俺自身身を持って知っていたはずなのだが、ついつい気が緩んでしまっていたのだろう。
「旦那よ。魔力は使えるんだろう」
「ええ、一応テイマーなんで、多少は」
「だったら、これからこれを持って行け」
あきれ顔のランリーは、手の平サイズの長方形の箱を俺に渡した。
金属で出来ており、片方の表面はガラスがついていた。
ランリーを見ると、彼女も同じ物を持っていた。
「なんですか? これ」
「これは遠距離通信機器、遠信だ。そのガラスの部分を見てろ。マックス、オン」
ランリーがそう言うと、遠信と呼ばれたそのガラス面にランリーの顔が写った。
なんだこれは? ランリーが封印されているのか?
俺が不思議そうにランリーを見えると、そこには普通に立っているランリーがいた。
「ランリーが二人? え! 鏡なんですか?」
俺がそう言うと、ランリーが持っている遠信から、同じ言葉が聞こえてきた。
どちらのランリーもニヤリと笑うと言った。
「これは遠くに離れていても、会話が出来る道具だ」
同じ言葉が俺の小さな箱から聞こえてきた。
さっぱり分からない俺を置いて、ランリーは部屋から出て行ってしまった。
「おい、聞こえるだろう。こんな風に旦那がどこにいたって、これで私と会話ができるんだよ。だから、これからは何かあれば、これで事前に連絡をしてくれ。わかったな。使い方は……」
そうして俺は遠信の使い方をランリーに教えて貰った。




