第61話 底辺テイマーは魔王の威光を見せる
「魔王様、うちの店で暴れないでくれよ」
俺達のやりとりを、心配そうに聞いていた店主が口を挟んできた。
それは、勇者との戦いの後、この街でみんなから言われているあだ名のようなものだった。
しかし、勇者との戦いを知らない兵士にとって、その言葉は聞き流せないものだった。
「魔王だと!」
「こんなところに魔王が?」
兵士達に動揺が走った。普通であれば、冗談と聞き流すところなのかも知れない。
しかし、そうはならなかったのには理由があった。
「じゃあ、こいつが草原の街を……」
そう、草原の街が壊滅している。国境から遠い街がたった一晩で壊滅したのだ。魔王であればそんな事はたやすいだろう。それが、俺のことを魔王だと勘違いさせるのに十分な理由だった。
「この方は勇者様を退けた方ですよ。ねえ、魔王様」
「あ、ああ、まあな」
「なに、勇者様を! どおりで、先行しているはずの勇者様の姿が見えないはずだ」
勇者を退けたのも草原の街を壊滅させたのも俺達というか、魔獣の二人なのだが、どうやら店主もこの兵士達に腹を立てているようで、俺を魔王に仕立てて、追っ払おうと考えているようだった。
そして、俺もそれに乗っかることにした。
「正体がばれては仕方が無い。俺は魔王マックス。この二人は俺の眷属で魔獣のシェリルとハットンだ」
「魔王に、魔獣だと!」
初めから俺が魔王と名乗っていたのなら、鼻で笑われていただろう。しかし、店主が俺の事を魔王だと言いだしたため、信憑性が上がってしまった。その上、二人が魔獣であることは紛れもない事実である。そのことが、俺の言葉に自信を与えてくれたのだろう。
俺の言葉を信じた兵士達は、ぼそぼそと相談し始めた。
「おい、どうする?」
「本当に魔王なら、俺達なんて」
「王都に報告しないと」
兵士達はじりじりと出口の方に移動し始めた。
「店主、今日は気分が悪い。帰る」
そう言うと兵士達は一目散に逃げだすと、酒場のみんなから歓声が上がった。
「ざま―みやがれ! 魔王の兄ちゃん、よくやった」
「王都から来たか何か知らないが、この街で大きな顔をしやがって!」
「兄ちゃん、一杯おごらせてくれ」
店主だけでなく、この場にいた人達も兵士に対して腹を立てていたようで、今のやり取りを歓迎してくれる。
俺は、シェリル達が暴れてこの人達を巻き込まなくて良かったと心底思った。
新しい料理が運ばれてきて、シェリルも機嫌を直して一安心する。
こうして、この街で俺の名前は魔王マックスで定着したのだった。




