第60話 底辺テイマーは自分が何者か悩む
まずい!
俺はシェリルを見ると、先ほどまでご機嫌で食べていた彼女は唖然としていた。
このままでは草原の街の二の舞になってしまう。
あそこでは冒険者相手だったから良かったが、今回は兵士相手だ。それもあの鎧は王都から来た兵士のものだ。彼らを殺してしまえば国を敵に回してしまう。
そうかといって、シェリルがこのままおとなしく引き下がるとは思えない。
草原の街のように、目撃者がいなくなるほど街を滅ぼすか?
俺は勇者と戦った後、俺達に優しくしてくれた街の人々の顔が浮かんだ。
彼らを殺してしまうなんてことは出来ない。
それならば、手は一つしか無い。
「親父! 大至急、会計してくれ。シェリル、次の店に行って、食べ直そう。好きなだけ食べても良いから、ここは我慢してくれ」
俺はシェリルをなだめすかす事に全力を注ぐことにした。
そんな俺の姿を見て、ダミ声の兵士が笑い始めた。
「なんだお前は。女の機嫌取りか? ガハハ。それでも男か? 情けない」
「何だと!」
兵士の挑発に俺は思わず反応してしまった。
相手は権力を笠に着て、俺を挑発する気満々だ。その上、人数も多い。
相手にしないことが最良の手だと分かっていたはずなのに、反射的に応えてしまった。
「ほう、王都の兵士である我々に、たかだか田舎の冒険者風情が刃向かうつもりか?」
「いや、そういうつも……」
「ダーリン、やっちゃう?」
俺が言い訳しようとするところをかぶせるようにハットンが、にっこりと兵士に笑いかけていた。
このままでは、最悪の結果になる。
シェリルはまだ呆然としてる。まずはハットンを抑えて、シェリルを抑えるのを手伝って貰わないとまずい。
「ハットン、ダメだ。抑えてくれ。なあ、兵士さん、俺達はもう、店を出るから、勘弁してくれないか?」
身体の大きな兵士はニヤニヤしていた。その顔はおもちゃを見つけたようだった。
そんな顔をしている者が、簡単に見逃してくれるはずもなかった。
兵士は周りの兵士達に話しかけた。
「おい、どうする? こいつが見逃してくれって言ってるけどよ」
「えーこれがそう言っている態度か?」
「そうだな、まるでこいつが、俺達を見逃してやると言っているような態度だな」
「何者だ? お前は。ホラ、名乗りを許してやるぞ」
名乗るにしても、名乗るほどの者じゃない。冒険者のマックス。職業はテイマーだが、現在テイムしているモンスターは無し。
いや、普通に名乗るほどじゃないな。そもそも、今の俺は冒険者と名乗って良いのだろうか?
なら、何だろうか? 行商人か? いや、確かにランリーに依頼されて食料品を仕入れたり、売ったりしているが、決して商人ではない。
その、俺という者が何者なのかと言う答えは、思わぬところから出た。




