第57話 底辺テイマーはタマモと友人になる
「あら、子猫ちゃんは食べられたいのかな?」
シェリルも一歩も引かずに、いつでも攻撃できる態勢を取る。
タマモも巨大な黒猫の姿に戻ると牙をむき、爪を出してした。
「お婆ちゃんの歯で、あたいの肌が傷つくとでも思っているのかにゃう」
一触即発。
相手も魔獣であれば、いくらシェリルでも、ただでは済まないであろう。
俺は、タマモの前に立ちはだかった。
「お互い、ここにはゆっくりと温泉に入りに来たのだろう。争うのを止めないか?」
「何だ? 人間、あたいの邪魔をするつもりかにゃう?」
タマモがぎろりと俺を睨んで来た。
シェリルとハットンで魔獣には慣れたと思っていたが、敵意丸出しの魔獣に睨まれて、俺は膝から崩れそうになる。
「タマモ、ダーリンに手出し無用って言ったわよね。それに、暴食の相手はワタリガがするって決まったでしょう。あんた、アノ堅物の獲物を横取りするつもり? 後でどうなっても知らないわよ」
「ワタリガ? そうだったにゃう。あたいは、あのおっちゃん苦手にゃ」
そう言うと、タマモは猫獣人の姿になり、またぷかぷかと温泉に浮かび始めた。
「いつ入っても、ここの温泉は気持ちいいにゃう」
「そうね。あなた、ここを知ってたなら、なんであたしに教えてくれないのよ」
「姉さんに教えたら、残さずお湯を吸い上げちゃうにゃう」
先ほどまでの殺伐した空気が一転して、タマモとハットンが世間話をし始めた。
その空気を察したように、シェリルも人間の姿に戻り、俺を背中から抱きしめた。
「ありがとう、マックス。でも流石に魔獣同士の戦いに入ってきちゃダメよ」
「……今後、気をつけます」
そうして、いつの間にかいなくなったグリフィスを除いて、魔獣三人と共に、温泉に入ることになった。
しかし、グリフィスか~テイムさせて貰えそうだったんだけどな。もったいないことをした。
良し、こんな時は、酒を飲んで忘れよう。
俺は、服を置いていた場所に戻ると、酒とつまみを持ってきた。ドワーフの街で貰っておいた、度の強い酒をちびちび飲みながら、塩干しした魚を喰らう。
当然のようにシェリルも酒を飲み、ハットンが後から混ざってくる。
そうすると、タマモがどうするのかと、気になったが、ハットンにくっついて当たり前のように混ざってきて、酒を飲む。
当然その姿に、シェリルが文句を言う。
「あんた、敵でしょう。なんで混ざってるのよ」
「敵じゃないにゃう。まあ、まあ、いつまでも昔のことを引きずってちゃいけないにゃう」
「何が昔よ! ほんの数分前の事も忘れたの?」
「数分前も昔だにゃう。ワタリガみたいに堅いことは言わないにゃう。一緒に酒を飲んだんだから、もう、飲み友達だにゃう。もっとお酒を注ぐにゃう」
タマモは酒ほしさに、喉を鳴らしながら俺にすり寄ってきた。それはご飯をねだる猫そのものだった。
「シェリルと喧嘩しないって約束してくれたら、酒もつまみもあげるぞ」
「もう、喧嘩しないにゃう。だからさっさと注ぐにゃう。この酒はうまいにゃう。どこで手に入れたんだにゃう?」
「美味いだろう。これはドワーフ秘伝の酒だからな」
「ドワーフかにゃう。兄さん、よくドワーフの酒なんか持ってるにゃう。どうやって手に入れたんだにゃう?」
「それは秘密だ。俺達に敵対しなければ、これからも分けてやるよ」
「分かったにゃう。兄さんの名前を教えて欲しいにゃう」
「マックスだ。あんたのことはタマモって呼んで良いか?」
「いいにゃう。これからよろしくにゃう」




