第56話 底辺テイマーはタマモに会う
何かが温泉ではじけ、お湯がシャワーのように空から降り注いだ。
しかし、そのお湯は俺にかかることはなかった。
「大丈夫? ダーリン」
何かから俺を守るようにハットンは元のクラゲの姿になり、俺達を包み込んでいた。
何が起こったのか分からない俺は、思わずグリフィスを抱きしめていた。
その隣には銀狼の姿になったシェリルが、ハットンの向こうにいる何かを睨みつけていた。
「ありがとう、俺達は大丈夫だ。ハットンは大丈夫か?」
「あら、あたしの心配してくれてるの? あたしは大丈夫よ。それに、あの子、ただお風呂に入ろうとしただけみたいだから」
「あの子?」
お湯のシャワーが収まり、今回の騒動の主が姿を現す。
黒髪に猫耳、細い体つきにお尻から長い、髪と同じように真っ黒な尻尾を持った猫獣人がそこにいた。
「ふ~良いお湯だにゃう。あっ、ハットン姉さん、いつの間に温泉に入って来たんだにゃう?」
「何言ってるの。あんたが入る前から、あたしたちが入っていたのよ。温泉くらいおとなしく入りなさいよ」
「ここはあたいのお風呂だから、どう入ったっていいにゃう」
ハットンと猫獣人は仲が良さそうに話していた。しかし、シェリルは警戒を緩めていないところを見ると、猫獣人のことを知らないようだった。そして、グリフィスは先ほど以上におびえるように震えていた。ハットンと同じか、それ以上の脅威と認識しているのだろう。
思い切って俺はハットンに聞いてみた。
「ハットン、この子は?」
「ああ、ダーリンはもちろん、暴食も初めて会うわよね。この子はタマモ。見ての通り猫の魔獣よ」
「何が見ての通りだ? 猫の獣人じゃなくて猫の魔獣?」
「なんだにゃう? この人間は? なんでハットン姉さんになれなれしく話しかけてるにゃう。うっとうしいから殺して良いかにゃう?」
タマモは温泉にぷかぷか浮かびながら、不穏な言葉を投げかけてきた。
その言葉に、シェリルが牙をむいて警戒した。グリフィスは逃げる用意をしていた。
「はいはい、みんな、殺気立たないの。タマモもダーリンに手を出さないの。万が一、ダーリンが血の一滴でも流したらどうなるか分かってるわよね」
「姉さんのいい人かにゃう? それなら、わかったにゃう。じゃあ、こっちの狼はなんだにゃう? さっき、暴食とか言ってなかったかにゃう? まさか、あの暴食かにゃう?」
「ああ、そうか。シェリルが魔獣協会を抜けてから、代わりにあんたが入ったのだったわね。これが噂の暴食よ」
ハットンはさらりと言ったが、このタマモが魔獣協会の一員だというのか。それにシェリルが魔獣協会の一員だったからハットンとシェリルは知り合いだったのか。
しかし、シェリルは魔獣協会から命を狙われている。
「やっぱり、あの暴食かにゃう。姉さん、なんで暴食と一緒にいるにゃう? 殺害命令出てなかったかにゃう?」
そう言って、あからさまな殺気を放っていた。




