第54話 底辺テイマーは野湯の珍客に会う
老人たちの言うことは正しかった。
温泉に入った俺はまず、彼らに感謝の言葉を送りたかった。
火口が近いからか、若干硫黄の匂いがするが、気にするほどの物でもなかった。
少しぬるりとする泉質は体にまとわりつき、肌がすべすべになってくる。
そして、温泉自体が広いため、温泉水が湧いているところと、そこから離れているところでは温度差があり、好きな温度の所に入れるというところだ。
俺は体を温めるために、少し温度の高い所でくつろぐことにした。
しかし、シェリルと出会ってから色々なことがあったな~。
魔獣であるシェリルに出会って、生きているだけでも奇跡なのに、まさか仲間として一緒に行動できるとは、あの時の俺には想像すらできなかっただろう。それにもう一人の魔獣ハットンだけでなく、幻の種族ドワーフに勇者。そういえば勇者も幻の種族エルフだと言っていたな。
俺は温度の低い所でも真っ赤になってくつろいでいるハットンを見て、もうひとりの魔獣を思い出した。蟹の魔獣カサミを思い出す。ちゃんと父親に魔柿を渡せただろうか。
「なーに、考えてるの?」
潜ったまま近づくと、俺に背中を預けるように膝の上に座った。心地よい重さと柔らかさと、きめ細やかな肌の感触が俺を包む。
俺はシェリルを抱きしめるように、引き締まっているお腹の前で両手をつないだ。
「シェリルと会ってから色々とあったと思ってな」
「あら、楽しくなかった?」
何度も死ぬ目にあった。しかし、楽しくなかったかと問われれば答えは一つだ。
「楽しいな」
普通であれば経験出来ないような事が次々と経験できた。幻と言われた種族や生物とふれあうことが出来た。これが楽しく無いわけがない。この温泉にしてもそうだ。彼女に会わなければ今も知らずにいただろう。
「良かった。これからも、もっともっと楽しくなるわよ」
「だったらいいな、おっ!」
羽音に気が付いて、空を見上げた。
そこには上半身が鷲、下半身がライオンの巨大なモンスター、グリフィスが舞い降りてきた。温泉を挟んで俺の前に降り立った。その瞳はまるで自分の温泉に無断で入っている俺達を非難しているようだ。グリフィスは空を飛べば鷹のように舞い、地上を走れば馬よりも早い。肉食で獰猛で自分よりも大きなモンスターにも迷い無く襲いかかかる。冒険者が二チームでも対処できないほど強力なモンスターだ。
「ここはお前の温泉だったのか?」
俺はいつでも、シェリルをかばえるように膝立ち状態になりながら、ハットンを視界に捕らえる。ハットンは気が付いていないのか、素っ裸のまま、呑気に大の字になって浮かんでいた。
「ピギュー!」
一向に温泉から出ていく気配のない俺達に対して、グリフィスは大きく羽根を広げて威嚇をしてきた。
「うるさい!」
高圧水がグリフィスのすぐ側をかすめて、後ろの大木を倒した。グリフィスの威嚇にいらだったハットンがグリフィスに脅しをかけたのだった。
「ぴぎゅ」
流石のグリフィスも魔獣の一撃におびえ始めた。
「何やってるのよ。可哀想に、おびえてるじゃない。ワタシ達の邪魔しなければ、一緒に入っても良いよ。ただし、喧嘩売る相手を間違えちゃダメよ。そうじゃないと、食べちゃうぞ」
シェリルが俺に身体を預けたまま優しく諭すように言うと、グリフィスはおびえながら、ハットンから離れるように温泉に入った。




