第51話 底辺テイマーは温泉を目指す
街の人に歓迎されながら、俺たちは食事をすることが出来た。
その、中では俺たちは旅芸人のような扱いを受けたが、努めて認識を改めるようなことはしなかった。今の俺は冒険者と言うよりも行商人に近い存在だったため、旅芸人でも良いかと肩の力を抜くことにした。
その酒場で、食料品を大量に購入できる店を教えてもらえたのは、幸いだった。
次の日にその店に行くと、すでに俺たちのことは知れ渡っているようで、スムーズに食料を買い込むことが出来たのだが、量がそれなりになったため、二日ほど必要だということだった。
ここから、ドワーフの街へ戻るにはそれなりに時間がかかる。中途半端な量の物を持って行きたくない。まあ、この二日が骨休みだと割り切ることにした。
そんな俺は朝から宿のベッドに腰掛けて、つぶやいた。
「しかし、どうするかな」
貧乏暇無しを体現していた俺は、二日もやることがないという生活などしたことがなかった。
冒険者としての仕事と仕事の間はあったが、その間は出来る仕事を探すか、訓練をしていた。そうしなければ、生活が出来なかったからなのだが、今はドワーフという堅い取引先が出来たおかげで、金銭的にも余裕がある。しかし、いざ時間が出来るとやることがなかった。
そんな俺を見て、素っ裸でシーツの中にいるシェリルが、ベッドの上でゴロゴロしながら話しかけてきた。
「ねえ、どうしたの?」
「いや~食料品を準備して貰う間、暇じゃないか。どうしようかと思ってな」
「そう? お腹空くまでお昼寝すれば良いじゃ無い」
「それもいいけど、なんだかもったいなくないか? それに俺はあんまり長く寝られないんだよ」
俺達冒険者は短時間の睡眠で体力が回復するように習慣づけられている。例えば、八時間連続で寝るのではなく二時間寝て、二時間起きてを繰り返す。そうすることによって、交替で休むことが出来る。だからシェリルの言う様にずっと寝ていることは、なかなか難しい。
「あら、そう? この部屋ぬくぬくでお昼寝、気持ちいいよ」
「まあ、なんとなくゆっくりしたい気持ちはあるがな」
「だったら、ちょっと面白い話聞いたんだけど」
それまで黙って聞いていたハットンが、俺の背中にその裸体をぴったりと合わせながら、俺の耳元で囁いた。ひんやりとして、滑らかな肌の感触が俺の背中にまとわりつく。
「どんな話だ?」
「ここから、すこし山に行くと温泉があるらしいのよ。そこに行ってみない?」
「温泉!」
「え! 温泉?」
ハットンの言葉に俺達は同時に声を上げて、顔を見合わせた。
その反応を見てハットンは嬉しそうに言葉を続けた。
「そう、温泉よ。結構、お湯が良いらしいわよ」
「ねえ、温泉って何?」
嬉しそうに話すハットンに対して、シェリルが不思議そうに尋ねた。
それを聞いたハットンは顎が外れるくらい口を開いて、驚いた。
「あんた、温泉知らないの? 地面からお湯が沸いてるのよ。天然のお風呂よ。いちいち沸かさなくて良いから、ずっと入っていられるのよ。素敵でしょう」
ほーう、温泉ってそういう物なのか。俺はハットンの話を聞いて、初めて知った。そもそも、お湯を沸かして風呂に入ること自体、贅沢だ。俺は金に余裕があるときに大衆浴場に行くくらいだ。そう言えば、ドワーフの街では、毎日お風呂に入らせて貰っていたな。
「でも、それって金がかかるんじゃないか?」
「それがね、街から少し離れているのこともあって、自由に入って良いみたいなのよ。ねえ、いいでしょう、行きましょうよ」
ここでぐだぐだしてしてもしょうが無い。俺達は一路、温泉を目指すことにした。




