第50話 底辺テイマーは魔王役と間違われる
「よう、魔王の兄ちゃん」
俺たちが先ほどの勇者の話をしていると、酒臭い赤ら顔のおっさんが近づいてきた。
「いや、俺は魔王なんかじゃ無くて……」
「いいや、あんたは魔王だよ。勇者に敵対するのは魔王だって、相場が決まっているだろう。楽しい劇だったぜ。あんな劇を見させてくれえるなんて、おっちゃん、楽しかったぜ。勇者様はどこか行っちまったから、代わりに魔王役の兄ちゃんに一杯おごらせてくれよ。良いだろう」
「え! 劇? あ、いや……」
「おじさん、おごってくれるの? ワタシ、お腹すいた」
否定しようとする俺の言葉を遮ったのは、シェリルだった。
俺はシェリルの側で黙っているハットンを見ると、黙って頷いた。
下手に魔王を否定するよりも、ここはあえておっさんの言葉に乗って、魔王役の役者だと思わせた方が得策だと言っているのだ。そうすることで、勇者も本物の勇者と言うよりも勇者を名乗る、旅役者と言うことにすれば、シェリル達のこともごまかせると考えたのだろう。
シェリルに関しては、ただ、本当にお腹がすいただけかもしれないけれど。
「よし、みんなで食事に行くか」
こうして俺たちは、おっちゃんの行きつけの酒場に、飯を食いに行くことにしたのだった。
~*~*~
シェリルとハットンから逃げ出した勇者は、宿から荷物を持ち出すと、一目散に街から出た。
街を背にして、夜道に馬を走らせる。
「しかし驚いた。こんな所で魔獣二匹に会うなんて、魔獣は基本単独行動をするはずなのだが。やはり、あの青年に何かあるのか? 人間とは思えぬ回復力だったが」
木剣とは言え、骨を砕く勢いで、打ち付けた。手応えとしても確実に折れていた。しばらく、地面を転がった後、何事も無かったかのように何度も立ち上がる。その姿に嫌悪感さえ抱いた。そして、あの左手。明らかにドワーフの品だ。自然と調和しようとせず、独自の世界を構築しようとするいびつな種族の物。己のからの閉じこもっているため、我々エルフ族が見逃して入るだけの矮小な存在。
そんな、奴らとあの青年は手を組んでいるというのか。
あの青年は、見た目は並以下の存在だった。
「見た目で判断してはいけないと言うことか。ドワーフ族を後ろ盾に、魔獣を配下に置くと言うことは、世界征服でも企んでいるのだろう。族長に報告をしなければ」
族長とは当然、エルフ族の長のことを指す。人族の王など、どうとでも言いくるめられる。何だったら実力行使をしても良い。人族なぞ、所詮は命短く、その能力のピークなど十年も無い、ただ、繁殖能力の高い欠陥種族なのだから。
勇者はそんなことを考えながら、数十年ぶりに故郷の森へと向かうのだった。




