第49話 底辺テイマーは勇者と聖剣について知る
「ま、魔王? シェリル、魔王って呼ばれてるのか?」
俺は勇者の言葉にシェリルの顔を見た。
「ワタシじゃ無いわよ。魔王だなんて呼ばれたことは無いもの」
「じゃあ、ハットンか?」
「あたしもそんな物騒な名前で呼ばれていないわよ」
「じゃあ、勇者は誰のことを言ってたんだ?」
不思議がっている俺の問いに、シェリルとハットンは当たり前という顔で指さした。俺の顔を。
「はぁ? 何で俺が魔王なんだ? 勇者様にボコボコにやられた俺のことを魔王だなんて言うんだ?」
「だって、人間は私たちのことを魔獣って呼ぶのでしょう」
ハットンが当たり前のことを口にした。
「そのあたしたちと一緒にいるダーリンが魔獣の王、つまり魔王って呼ばれてもおかしくないわね」
「それにアイツ、あなたの左腕にも気がついていたわよ」
「この義手に気がついたって、どういうことだ? 別に隠していないから皆、分かるだろう」
俺はシェリルの言っている意味が分からなかった。俺は義手自体、別に隠していない。それは、冒険者であれば大なり小なり傷を受ける。中には俺のような義手、義足を着けている者もいる。確かに、俺が着けているドワーフ製のような精密な物では無いにしても、それに何の意味があるって言うのだ。
「彼はその義手がドワーフが造った物だって気がついていたって言う意味よ。彼、エルフ族だから、天敵のドワーフの物には敏感なのよ」
「エルフ族?」
エルフ族はドワーフと同様に幻と言われた種族で、人が来ない山奥に住んでいると言われている。色々な機械を生み出し、それを造ることを生きがいとするドワーフ族と真逆に、自然を愛し、その長い寿命で魔法や体術などを極めることを生きがいとするエルフ族。その極めた魔法と体術は、エルフ族と自然を守るために使われ、テリトリーに入り込んだ人間など他種族を排除するためにのみ使用されると言われる。
勇者がエルフ族だというのならば、決して見た目通りの年齢では無いと言うことなのだろう。その年齢だけ研鑽していたのだろう。俺など子供扱いされて当たり前だ。
しかし、そんな勇者が何でこの国に来て、勇者として人々に武術を教えているのだろうか? そして、なぜこんな所にいるのだろうか? 謎ばかりだ。
「いや、そんなことより、俺が勇者様に魔王と勘違いされたことが大問題だ。次に会ったときには聖剣を抜くとか言っていなかったか?」
「言ってたわね」
「言っていたわよ。気をつけてね」
気をつけてどうにかなることなのか? 俺は気が重くなった。
そして俺は気になることを口にした。
「ちなみに聖剣ってどんなものか知っているか? 御前武術大会の優勝者に勇者の称号と一緒に貸し出される宝剣だということは知っているのだけど、ただの儀礼用の剣じゃないのか?」
「あたしも詳しくは知らなけれど、ただの儀礼用ではなく、持つ者の能力を増強させたり、敵の魔力や生命力を吸ったりして、個の力である勇者を軍隊級に引き上げる代物だと聞いてるわよ。そのため、聖剣を抜く条件は、国王が要請した時か、勇者が単独の時に、軍隊級で当たらなければならない問題に遭遇した時だって聞くわね」
本当に人間嫌いなのかと疑うほど、ハットンは人間世界のことをよく知っている。ハットンが自ら言っていたように、ハットンは別に人間嫌いなどではなく、人間のほうが、ハットンのことを嫌っているため、距離を取っていたのだろう。確かに、実際のハットンに接するまで、俺もハットンのことを『漂う災厄』と言って恐れていたのも事実だ。
今となっては、シェリル同様、かわいらしい女性だと思っているのだが。
聖剣の説明を聞きながら、そんなことを考えていると、シェリルが俺のほほをつねった。
「何するんだよ」
「なんとなく、つねりたかっただけ」
そう言ってシェリルはほほを膨らませた。




