第46話 底辺テイマーは勇者に会う
そこは街と言ってもこれまでの街よりも規模は小さかった。街の大きさは広いのだが、それほど人は多くない農業を基幹産業とした街だった。
街の周りには小麦畑が広がり、遠くには牛や豚、それに山羊や羊の放牧している姿が夕日に浮かんで見える。
すれ違う荷馬車には食料品が高く積まれていた。
普段は行商人が訪れるだけのこの街が今は、初めて来た俺でも分かるほど、騒がしかった。
先ほどの軍隊の件もある。俺は行商人を装って街の人に訪ねて見た。
「すみません。この街でなにかあったのですか?」
「お? なんだ、あんた何も知らないのか? 今、この街に勇者様が来ているんだよ」
「え! 勇者様が!? 本物ですか?」
勇者。
この国での個人戦での武術のトップの者を指す称号。
一年に一回の御前武術大会において今年の勇者を決められる。武術大会は性別、種族問わず。魔法、魔具使用可能で、基本的に何でもあるアリである。モンスターを引き連れたテイマーでも参加が可能である。
そんな武術大会において、今の勇者様は十年連続優勝をしている自他とも認めるこの国最強の戦士である。
通常、勇者は王都で兵士や騎士に武術指導をしている。また、王の命令で各地に赴くこともある。
その勇者様がこんな農業しか産業がないような所に来ているのは、目的地に行く途中に泊まっているだけだろう。
王都になど行ったことのない俺にとって、勇者様を見る機会など今を除いて他にはないだろう。
「なあ、ふたりとも、勇者様を見に行こう!」
「え~、面倒」
「ダーリン、あたしもパス! 先に宿に戻ってるわ」
「そんなこと言わずに行こうよ。こんな機会、めったにないんだから」
そんな俺の言葉を無視して二人はさっさと宿に行ってしまった。仕方なく俺は一人で、勇者がいるという酒場へ向かうことにした。
そこには、街の人々に囲まれている一人の男がいた。
金色の美しい長い髪。最強の戦士とは思えない傷ひとつない、白い肌。切れ長の瞳の奥は、すんだスカイブルーだった。すらりと背が高く、俺よりも頭ひとつ違うのではないかと思うほどだった。
「なあ、アレが勇者様か? もっとガタイが良いのかと思ったら、えらく美青年だな」
俺は近くの人に確認のために話しかけた。国最強の戦士と聞いて、熊のような体つきに、身体のあちこちに歴戦の傷があるような男を想像していた。それが、一歩間違えば女性と見間違うほどのその姿に思わず、そんな言葉が出てしまった。
「まあ、よく言われます。何だったら、一戦手合わせしてみますか?」
俺の言葉を聞きとがめた勇者が、人をかき分けて、俺の目の前に来た。
「いや……俺は」
「見たところ、冒険者のようですね。良いではないですか。余興ですよ余興」
「そうだ、そうだ。兄ちゃん。勇者様と手合わせなんて普段はお金払ったって出来やしないぞ」
尻込みする俺の背中を、街の人々がはやし立てて退路を防いでしまった。




