第45話 底辺テイマーはハットンの気持ちを聞く
「しかし、あの軍はなんでこんなところにいるんだろうか」
こんな国境から離れた田舎に軍隊が来るなんてめったにないことだった。
人数は多くはなかったが、それは異常な風景だった。
そんな俺のつぶやきに答えたのはハットンだった。
「さあね。そこの駄犬が酒場で人を殺したのが、王都に伝わったんじゃない?」
俺達が冒険者として過ごしていたあの街を逃げる切っ掛けになった殺人のことを言っているのだろう。
同じ冒険者のドドンガが俺達に絡んできて、頭にきたシェリルがドドンガの頭を吹き飛ばしたのだった。その時の目撃者は多数いた。その誰かが通報して、軍隊が様子を見に来た可能性はある。
「何言ってるのよ。どっかのおバカクラゲがふわふわ飛んでるのを目撃されたからじゃないの?」
シェリルは自分のことを否定することなく、ハットンを攻撃する。
しかし、ハットンも心当たりがあるのだろう、それを否定することはなかった。
どちらがその切っ掛けになったのかは分からないが、魔獣の噂を聞きつけて、軍隊を派遣されたのかも知れない。しかし、二人が人間の姿ならば問題は無いだろう。
「どちらでも良いけど、二人ともやたらと元の姿に戻らないてくれよ」
「え!?」
二人は同時に声を上げて、俺を見た。その顔は驚きと悲しみに満ちていた。
「ワタシの姿嫌い?」
「あたしの姿嫌い?」
「いや、二人とも元の姿はまばゆいほど綺麗だよ。ただ、下手に他の人間に見つかると、さっきみたいに人間の討伐隊が派遣されると、面倒だろう。シェリル、君は特にワタリガからも狙われているんだ。無駄に敵を増やす必要は無いだろう」
「分かったわ。元の姿になるのはマックスとふたりっきりの時だけにするわ」
「あら、残念、あたしがいるから、あんたずっとその姿のままよ。あたしはダーリンが言ってくれればいつでも元の姿に戻るわよ」
「ダーリンって何よ」
「あんた、知らないの。愛しい男の人を人間はそう呼ぶのよ。穴倉生活が長かったワンちゃんは、人間の流行なんてわかんないでしょうね」
「へー、初めて聞いた。あんた人間嫌いなのに、良くそんな事知ってたわね」
何か言い返されるかと思っていたハットンは、マックスの素直な言葉に拍子抜けていた。
「別に人間嫌いって訳じゃないのよ。あっちが勝手にあたしを嫌ってるから、距離を取っているだけよ」
そう言ってハットンはぷいと背を向けて横になってしまった。もうこれ以上、話をする気は無いと身体全体で表現していた。
シェリルはハットンの事を人間嫌いと言っていたが、元々そうではないのかも知れない。もしかしたら、昔は人間に興味があったのかも知れない。そして、人間に近づき、何か事件が起きたのかも知れない。本当に人間嫌いであれば、初めて会った時点で、俺の命などとうの昔になくなっていただろう。
そう考えると、俺達と一緒にいることで、ハットンがその頃のようになってくれる事を祈るばかりだ。
そんな事を考えていると、次の街が見えてきた。




