第40話 底辺テイマーは魔獣同士の喧嘩を見る
ヘイルの言葉が引き金になって、シェリルとハットンが魔獣の姿になると、暴れ始めたのだった。
酒場のテーブルや椅子はもちろんのこと、建物自体も崩壊し始めたので、俺は慌てて店の外に出た。
あちらこちらから悲鳴が上がり、その中には俺に声をかけたヘイルの悲鳴もあった。
暴食の魔獣、巨大な銀狼シェリルと厄災の魔獣、空飛ぶ巨大クラゲハットンはすでに酒場の人間に興味を失っており、ただただ、二人で戦っていた。
魔獣同士の戦い。
それは、ひとつの街を壊滅させるのに一晩もかからなかった。
俺は何度も二人に声をかけたが、全く聞こえて居ない様子だった。
二人が我を忘れていた。それが分かった時点で俺は即座に宿に戻り、自分の荷物を持って、街の外に逃げて、二人が冷静になるのを待った。
朝日が差し込む頃には、街はガレキの山になっていた。
二人が魔獣と知っている俺は、酒場周辺が壊れるくらいは覚悟していた。宿あたりまで被害が出るかと思っていたが、まさか一晩で街を壊滅させるとは思わなかった。念のため、街の外まで逃げていて助かった。
俺はふたりを探して、ガレキの山となった街に戻ると疲れ果てた美女がふたり、倒れ込んでいた。
荒い息を吐き出して、横になっているふたりを見て俺はほっとした。
あちらこちら汚れているが、ふたりとも怪我をしている様子はなかった。
「ふたりとも、とりあえずここから離れるぞ」
「え~、動けない……じゃあ、抱っこ」
シェリルが甘えた声を出した。
街の人間が全て死んだ訳ではない。今は逃げているだけだが、襲ってくる可能性が高い。早々にここから離れる必要がある。
仕方なく、俺はシェリルを抱っこして、馬車に運び終わり、ハットンを見ると、彼女は動かずにいた。
「どうした? どこか怪我をしたのか?」
「……抱っこ」
「へっ?」
「シェリルだけ抱っこして、ずるい。あたしも抱っこ」
ハットンはその真っ白な頬を膨らませて、横たわっていた。
その場をすぐに離れたかった俺はため息をつくと。ハットンを抱き上げた。
シェリルのように温かく落ち着く感じではなく、ひんやりとしてどこかはかなげな身体を抱き上げると馬車に運ぶとすぐに、街だった所から逃げ出した。
「しかし、これからどこに行こうか?」
「あっちにここより大きな街があるわよ」
俺たちはハットンが指す方へ馬車を走らせた。
~*~*~
街が崩壊してから半日がたった頃、一人の男が立っていた。
全身を真っ赤な鎧を身につけ、左手には亀の甲羅を思わせる巨大な盾を持った男は誰も居ない街を見てつぶやいた。
「遅かったか」
そうして、男は川から水を呼び込んでいる堀の中に消えていった。




